かたいなか

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最近最近、都内某所のおはなし。
某深めの森の中に、不思議な不思議な、本物の稲荷狐が住まう稲荷神社がありまして、
そこの末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、人間の世界を勉強しておるのでした。

ところでその末っ子子狐、近所の化け狸の和菓子屋さんの、見習い子狸と仲良しでして。

「あのね、コレがね、アニョハセヨおばちゃんが作ってくれた、にゃんのむカレー」
「うん。ヤンニョムカレーだね」
「そうそう。なんにょむカレー」

その日の東京は雨模様。
お母さん狐もお父さん狐も仕事に出てしまい、
おばあちゃん狐とおじいちゃん狐も、神社に来た「お金持ちセンセイ」のために祈祷中。

薬の仕入れに来ていた薬師の「구미호(クミホ)」、九尾狐の美しい狐耳したおばあさんが、
同類のために本場直伝、お神酒にもピッタリ、
ヤンニョムチキンをベースにしたカレーをぐつぐつ、コトコト、本場より少し甘旨い味付けで、
お昼ご飯として、作ってくれたのでした。

『アッパとオンマに、よろしく伝えてね』
傘をさして、雨降る中、九尾狐のおばあさんは子狐を撫でてなでて、そして、帰ってゆきました。
『辛さは調節したつもりだけど、それでも辛かったら、ハチミツかマヨネーズを入れるのよ』

雨傘の中には美しい、クミホおばあさんの狐耳。
「傘の中の秘密」です。
おばあさんは「誰か」と目が合って、その誰かが狐耳に気付いたのを知ると、
しぃ……っ。穏やかに笑って、人差し指しました。

秘密、ひみつ、비밀입니다。
すべては傘の中の秘密、なのです。

で、クミホおばあさんにヤンニョムカレーを作ってもらった子狐、マヨ入りの味が衝撃だったので、
雨の中、親友の子狸を神社に連れてきて、
子狸にも、食わせてみることにしたのです。
ピリ辛なヤンニョムが大人の味だったのです。

さらさら美しい雨音ひびく神社の外、
大きい傘をテントよろしく地面に置いて、
コンポコ子狐と子狸は、オシャレに雨音ピクニックを敢行。お昼ご飯がヤンニョムカレーです。
あら少し楽しそう。

「ヤンニョムって、カレーにもなるんだね」
和菓子屋の酒好きな弟子仲間と兄弟子が、某100均産のヤンニョム風焼き鳥をツマミに飲んでいたのを、子狸ポンポコ、思い出しました。

「おばちゃん、チーズ入れてもおいしい、って」
なんのむ、なんのむ。本能に従い先にお肉を食べてしまった子狐は、まぁまぁ、それでもルーが美味。
「キツネ、チーズ、もってくるぅ」
とろとろチーズを準備すべく、子狐は傘のテントから飛び出して、自宅のキッチンに急行。
ついでにジューシーお肉も仕入れてくる魂胆です。

まぁその魂胆は、ガッツリ子狸にバレてますが。
「お肉欲しいなら言えば良いのに」

さぁさぁ、雨音ピクニックを続けましょう。
サラサラぱたぱた、空から降ってくる水が、傘の生地を弾きます、傘で打楽器を始めます。
「ヤンニョムカレーか……」
傘の中では子狐と、子狸がカレーで雨音ランチ。
これもまた、「傘の中の秘密」、なのでした。
おしまい、おしまい。

6/3/2025, 3:19:04 AM