前の夏から雇われた庭師の彼に、精一杯気取って挨拶をする。
こんにちは
その瞬間に、風が爽やかに駆けていった。
さらさら擦れる、葉ずれと絹ずれ。
彼は歳よりよっぽど幼い顔に目一杯の笑みを浮かべた。
「こんにちは。今日も綺麗だね」
なんて、恥ずかしげもなく言えるだなんて、将来は大物のタラシになりそうね。
絆されそうに、いいえ、もう絆されているのを隠すためにも私は気取って気取って繕わないといけない。
剪定鋏を取り出して、ぱちん、バチンッと切っていく。この辺りは背が低くて枝も細い子だけど、その代わり枝々が密に茂っている。長袖ではあるけど薄手の生地では、枝が刺さってさぞ痛いことでしょう。
それでも、それを隠して彼は笑う。鼻歌を歌いながら、時折、話しかけてくれながら。
そしてまた、綺麗だね、と。
ほんとう、将来がおそろしい。いつか貴方もいなくなってしまうことも含めて。
でも、それも仕方がない。寿命が違うのだから。今まで何人もやってきて、同じだけ去っていった。
その人達全員に、懸想して、誰も気づかない。
それも、仕方がない。
私の隅々まで手入れをする彼に、私の心を知る術はない。
仕方がない。仕方がないの。だって、貴方は庭師、人間で、わたしはただの紫陽花だもの。
6/14/2024, 12:27:53 AM