手ぶくろ
貴方の黒い手袋。
こびり付いていたのは、
赤黒く錆びた、私の罪の証。
あの瞬間、
私の手に握られていた銀の刃が、
貴方の命の赤を纏い、
冷たく深い、愛情の色へと、
染まっていきました。
貴方の身体から、
静かに命の赤が流れ出しても、
貴方は、私が刻んだ傷を、
震える手で押さえながら、
微笑んでくれました。
貴方の嵌めていた黒い手袋は、
貴方の赤を吸い込み、
重く沈むように見えました。
でも、その姿は、
私の貴方への想いそのものでした。
手の中に残ったのは、
溢れる貴方への愛だけ。
赤黒く染めた、
貴方の黒い手袋は、
私だけの、永遠の宝物。
ですが…。
貴方を奪おうとする輩を、
私は赦せなかったのです。
「医療行為」という名前の偽善で、
過去の愛を引き摺りながら、
お互いだけをその瞳に映していた、
過去の愛おしい時間を、
取り戻そうとするように、貴方に触れる、
血に染まっていく、その白い手袋が、
私には、耐えられなかったのです。
そして、
私の前に残されたのは、
貴方を自分の元に縛ろうとする、
悪魔の手先が嵌めていた、
血に濡れた白い手袋。
だから、私は。
真紅に染まった白い手袋に、
錆び付いた鋏を、押し当てます。
白い手袋だったものは、
赤の混ざる白い繊維片へと、
形を変えていきました。
白と赤の残渣を、
風花に混ざるように、
空へと撒き散らします。
私が貴方の元へと向かう、
…この世の名残に。
そして、残るのは、
鮮やかに、深く紅く染まる、
貴方の黒い手袋。
そして、貴方の微笑みだけ。
12/28/2024, 9:27:25 AM