はじめ

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(あーめんど)
友人に誘われたライブハウスの前でため息をつく。どうしても聞いてほしいバンドがあるのだ、としつこいので、一曲だけと言ってチケットを受け取ったのだ。
(ちょろっと聞いて、帰ろ)
薄暗い中に入ると、丁度前のバンドの終わりかけだった。観客の中に目をこらすと、友人も気付いたのか手を振る。すぐ横に行き、当たり障りのない挨拶を交わすと、ステージでは次のバンドの準備ができたようで、周りから歓声が飛んだ。友人の目も輝く。
見た目、Tシャツに黒パンツ、短髪の4人。地味。ギターとキーボードとドラムと、スタンドマイクを握るのはボーカルか。
「集まってくれてありがとうございます。では」
それだけボーカルが言うと、ドラムがリズムを刻みだした。

(え)
一瞬で。
自分の周りの空気の、微粒子に至るまで全てが、きらきらきらきらと光を帯びる。
いや、空から降ってくるのだ。光の粒、それはまるで。
(星が、空に収まりきらずに溢れて)
(人間を、生物を全てを輝かせるために降ってくる)
そんな音が、この狭いライブハウスいっぱいにぎゅうぎゅうになってくる。
ドラムのリズム、主旋律のキーボード、それらを飾っていくギター、そして、声が乗ってくる。
(ぶつかってくる)
星が直撃してきて、痛いぐらいなのに、きらきらと輝きは失せない。例えるならそんな声が響き渡って。
(なんだこれ)
気が付いたら泣いていた。

凄かったでしょう、泣いちゃうの分かるーって言う友人に、半ば朦朧としながら頷く帰り道。
ずっと耳の後ろを擦っていた。
星が、ぶつかってきたせいだ。

3/15/2024, 11:59:13 AM