あ
やってもうた
ハンコ
違うとこに押してもうた
気づいて血の気が下がる
残業して居残りして
最後、これまで終わらせて帰ろう、とハンコをポンポン押していった
慣れた作業
今日も俺は頑張ったぜ、お疲れさん、これ終わったら帰りまーす、って誰もいない社内でノリノリで一人で呟いてたら
あ
と気づいた
ポンポンの、勢いで押したハンコが押しちゃいけないとこに押されている、て
しかも大型契約のハンコ
営業部が盛り上がっていたあの書類である
思いっ切り息を吹きかけて
ティッシュで軽く拭いてみたけど
消えない朱肉
一旦落ち着こう
事態を飲み込むため深呼吸をして
落ち着いたところでもう一度書類を見つめる
何度見ても大事な書類に変わりは無かった
僕は震えている
明日からの三連休がどす黒い暗雲に飲み込まれる
家に帰っても覚めない悪夢
夢
罵詈雑言
油汗で呼吸ができない
今期最大の大事な契約がお前のせいでご破談に
三日三晩攻められる
いきり立った営業部長から顔面にデカいハンコをポンポン押される
ああ?間違えた、ああ?間違えた
間違えて済むなら契約書はいらないんだよバカヤロウ、と
僕の顔面は朱肉にまみれて
それでも部長は押し続ける
こうして僕の三連休は悪夢を見て終わった
連休が明け
もう謝るしかない
覚悟は決めていた
朝一で営業部へノックする
部長、あの、おはようございます
あの、すみません、実は契約書のハンコを押しまち
まで発言したところで、遮られる
あ、ごめん、今それどころじゃないんだよ
大型契約が破談になっちゃってさ
先方からいきなり契約解除して欲しいだって、
理由も告げずにありえんやろ
頼んでた契約書もやり直しになるかもしらん、ほんと申し訳ない
あ、そうですか
それはけしからんですね
といって営業部のドアを静かに閉める
僕は社内の廊下を音を立てずに全力で駆け
薄暗い階段を駆け上り
屋上へ繋がるドアを蹴破り
思いっ切り叫んだ
うおおおおおおおおおおお!!
全身でガッツポーズを決める
屋上から
空を見上げると
真っ青に突きあげる様な
透明な空
これぞまさに、
秋晴
『秋晴』
10/18/2024, 3:30:23 PM