【別れ際に】
地平線へと沈みゆく太陽が、空を赤く燃やしていた。
「またね」
別れ道の三叉路で、君はいつも通り微笑んだ。ひらひらと手を振って、僕を振り返ることもなく帰路を歩いていく。地面に伸びた長い影が見えなくなるまで君の背中を見送る僕になんて、一切構うこともなく。そんな君のつれなさが悔しくて、だけど誰にも媚びることのないその高潔さに幼い頃からずっと憧れていた。
君が行方をくらませたのは、その翌日。古い因習にがんじがらめにされた田舎町を自分の意思で飛び出していったのだと、教室の僕の机の中に残されていた君からの手紙で知った。
もう何年も昔の話だ。君が今どこで何をしているのかすら、僕は知らない。だけどそれでも、忘れることができないんだ。夕暮れの中に佇む、あの日の美しい君の姿を。
別れ際にすらいつも通りの挨拶しかくれなかった君に、僕は今でも恋をしている。
9/28/2023, 10:27:40 PM