“涙の跡”
「えっ」
戸惑って、その目元に思わず手を伸ばした。すうすうと穏やかな寝息に反して、そこには穏やかでない水分の跡がついていた。優しくなぞれば、うぅんと眉間に皺が寄る。かわいいな。かわいいけれど。
「どうしたの」
問うても答えがあるはずもなく。今はただ、安心しきった様子で寝ているから、少しだけホッとした。きっと、嫌な夢でも見たのだろう。強いくせに変なところで脆いこのひとは、こうやって、見えないところで弱っているからタチが悪い。自分を甘やかすことをよしとしないその頑固さが好ましくもあって、だけど、時々無性に悔しくなる。他の誰に頼れなくても、オレにだけは頼って欲しいのに。
「かなし、かったんだね」
きみが何に心を痛めて、何を思って泣いたのかなんて。わからない。わからないし、きっと知られたくもないんだろう。
それでも、かなしいって気持ちの半分だけでも、抱いた痛みの欠片だけでも、請け負わせて欲しいと思う。だって――オレはずっと、きみに救われてきたのだから。
7/27/2025, 11:57:20 AM