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エナドリで誤魔化しながら仕事を終えて、俯きながら帰る。一歩でも立ち止まるとそのまま崩れ落ちそうで、引きずりながら足を踏み出す。
玄関の鍵を開けると、真っ暗な空間が広がっていた。外の灯りを頼りに慣れた手つきでボタンを探し当て、ライトを点ける。
そのままベッドにダイブすると時間だけが溶けていくから、誘惑を抑え込むように鞄を床に落とす。
誰もいない家に寂しさは感じない。これが普通の感覚になっているから、衣服は投げ出されリモコンやティッシュなどが不規則的に配置されている。
自炊をする時間も体力もないから、今日もカップ麺を取り出して熱湯を注ぐ。金と若さと健康意識が麺を啜る度に削られていく気がする。でも、どうしようもないから。仕方ないから。
これが現実だから。
擦れた心は思い出も未来への希望も、誰かの活躍も奮闘もくだらないと吐き捨てる。
タバコを吸いたくて窓を開けると、ひどく立派なマンションが視界に入り、紫煙で吹き飛ばす。
夜の天井には心許ない星がいくつかあって、そのどれもが自信無さげに見えた。
なんだか、似てると思った。
なあ、お前らはこの夜が終わったらどうなるんだ。
太陽に縋るしかなく、ちっぽけな輝きでほとんど誰にも気付かれず消えていくのをどう思っているんだ。

許せないよな。
見返してやりたいよな。

大丈夫だ。覚えておく。
この夜空を超えて、またあの野郎に空を蹂躙されても、覚えてとく。
だから、今だけはこの輝きを見させてくれ。

12/11/2025, 12:22:03 PM