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 闇夜の中に動く赤い影。
 その影を捉えようとして成功した人間はいない。
 影の正体は果たして何者か?

 赤い影、それはサンタクロースである。
 サンタは、クリスマスしか働かないと思われているが、大いなる誤解である。
 クリスマスの日以外は、子供たちの事を調べているのだ。
 そして、クリスマスの日に何をプレゼントするか決めるためである。
 彼は赤服のスパイである。

 そして、今日の調査のターゲットは、竹内 純也。
 10歳、小学4年生。

 事前調査によると、彼はゲーム機を望んでいる。
 だがサンタは悩んでいた
 彼にゲーム機を与えていいものかと……

 というのも、彼は最近真夜中にどこかに出かけているのである。
 夜中に親に黙って、一人で出歩く。
 言い逃れの無い『悪い事』である。

 サンタは良い子にプレゼントを配る。
 しかし、彼はどうだ。
 誰が見ても悪い子だろう。

 しかし、とも思う。
 家から出る純也の目には、何か決意のようなものが宿っていた。
 サンタは判断を一旦保留とし、後を付けて真相を確かめることにした。

 純也は、灯りも持たず、人目を避けるよう暗い道を選んで進んでいく。
 だが進む道に迷いが無い事から、目的地は決まっているようだ。
 月明かりだけのくらい夜道、サンタは足音を立てず、純也のすぐ後ろを歩いていた。
 何かあってもすぐに助けられるようにである。

 しばらく歩いてたどり着いたのは、周りを柵で囲まれた空き地。
 看板には大きく『立ち入り禁止』と書いてある。
 月の弱い灯りだけでも読むことができたが、純也は看板には気にも留めず、広場の中に入っていく。
 サンタも周りを確認し、誰も見ていないことを確認してから後に続く。
 
 広場の奥の方の物置小屋の後ろに純也は入っていく。
 サンタは気づかれないように、後ろから覗く。
 そこでサンタは見た。
 純也が子猫に食べ物を与えているのを……
 その猫は衰弱していた。

 どうやら、生まれつき足が悪い子猫のため、こうして世話をしているようだ。
 夜中なのは、入ってはいけない場所に入るところを見られないためであろう。
 サンタは、純也が悪い子ではないことを知り安心する
 しかし、夜中出歩くのは悪い事であり、危険でもある。
 サンタはどうすべきなのか悩んだ。

 そうこうするうちに、子猫は食べ物を食べて、眠ってしまった。
 それを見た純也は、空き地から出て、来た道を戻っていく。
 サンタも来た時と同じように、純也を見守りながら後ろを歩く。
 無事に家に入るのを確認し、サンタは考える。

 純也は弱っている猫に食べ物を与えるという、とてもいいことをしている。
 しかし純也は再び夜中に出歩くだろう。
 それは悪い事だし、何より危険だ。
 二度と夜に出歩かないようにするにはどうしたらいいだろうか?
 それに、この行為が猫にとって良い事かも疑問であり、いつまでも続ける事も不可能であもあろう。

 サンタは悩み抜いた末、ある決断を下す。
 彼に必要なものは、ゲーム機ではない、と。

 ◆

 翌日、夕方。
 純也は通っている塾から帰ってきた

「ただいま」
「純也、おかえりなさい」
「お腹減ったから、何かたべるも――あ!」
 純也は家の中で帰るや否や、驚きの声を上げる。
 当然だ。
 自分が毎晩食べ物を与えていた猫が、家でくつろいでいたのだから。

「お母さん、この猫どうしたの?」
「お昼に知り合いが来てね。
 『弱ってる猫を拾ったんだけど、家じゃ飼えないからもらってくれませんか?』、ってうちに来たの……
 あんた猫飼いたいって言ってたでしょ」
「うん」
「ちゃんと世話しなさいよ」
「分かった。約束する」
 純也は心の底から喜ぶ。

「ところで……」
 母親の声が一段と低くなる。
「聞いたわよ、あなた夜中に出歩いたんだって?」
「ごめんなさい!」

 ◆

 遠くから家の様子を見ていたサンタは、この結果に満足した。
 これならば、純也は夜中に出歩くこともないだろう。 
 そして彼のクリスマスプレゼントも決まった。
 猫のおやつや、おもちゃを持っていくことにしよう。
 彼に必要なのは、ゲーム機では無い。
 猫と触れ合う時間なのだ

 サンタは、手帳を取り出し『竹内 純也』のページに、『猫グッズ』と書く。
 これで調査完了である。

 彼らの様子を眺めている間に、日は暮れて周りは暗くなっていた。
 サンタはちょうどいいと、次の調査を始めることにする。
 夜はサンタの時間なのだ。

 次の調査予定の子供のページを開く。
 住所をしっかりと確かめて、子供の家に向かう。

 次の子供は何をプレゼントすれば喜ぶだろうか?
 そんなことを考えながら、サンタは夜の闇に消えていくのだった。

5/18/2024, 2:56:46 PM