頁。

Open App

 放課後は楽しい。
 中学生の頃、僕は帰宅部で、徒歩通学出来る距離に住んでいた。それでいてぼっちで、静かな場所ほど心地好いものを知らなかったものだから、放課後は、誰もいない教室で黙々となにかをしていた。
 例えば普段は手を着けないような小難しい本を読んでみたり、音楽を聴いてみたり、授業の復習をしてみたり、頭に浮かんだシーンを書き連ねて、執筆みたいなことをしてみたり。
 そんなちっぽけな日々が楽しくて、大好きで。そのためだけに苦い学校生活を乗り越えていた。
 放課後は、一人静かに教室で過ごす。
 それ以上に楽しいものはないのだ。

 ──うん。
 高校に入るまではそう、本気で思ってたんだけどね。
「おいっ、今絵の具飛ばしたの誰だ!?」
「そっち段ボール足りてる?」
「それよかペン欲しい、ペン」
「アッハッハッハッハ! ゲホッ、ウハハッ……」
 文化祭まで残り一週間。大詰めの時期である。
 そこに静かな空間はなく、ガヤガヤと騒ぎながら作業を進める同級生たちの姿があった。
 まあ、うん。なんだろうね。
 昔はこういう雰囲気がすごく苦手だったけれど、今なら、こういうのも悪くないと思える自分に心底驚いてるよ。
「なあ佐藤ぉ、暇なら手伝ってくれよ~」
「暇じゃないっての! 仕方ないなぁ」
「よっしゃ! こっちこっち!」
 うーん、世の中不思議なことだらけだなぁ。


▶放課後 #27

10/13/2023, 10:07:08 AM