「ひとつだけあの世に持っていけるならなにがいい?」
「……普通、無人島とかじゃないのか?」
「そんなのつまんないじゃん。キミなら死んだときのことくらい考えたことあるでしょ?」
「君は死んだら三途の川を渡るとでも思ってるのか。死んだら何もない、全部終わりだよ」
そう言ってキミは話を終わりにしようとする。
「えー、絶対違うよ。あの世もあるし幽霊だってきっといるよ!」
一個くらい思いつくでしょ、と駄々を捏ねる私に、キミはうんざりしたような顔をする。
「……逆に聞くけど、君は何を持っていくつもりなんだ」
あまりにしつこい私に、しょうがないなあと言わんばかりにキミは問いかけた。
「私?私はねえ、キミがいてくれたらいいなって思ってる!」
そう言うと、キミは面食らったとばかりに目をぱちくりさせた。
「僕は持っていけないだろう?一緒に心中でもするつもりか?」
何を馬鹿なことを、とキミは言う。
「そんなことしないよ。ていうか、キミはしてくれないでしょ」
「当たり前だろ」
「だから待ってる」
「え?」
「私が先に死んだら、あの世に行く道の途中でキミのこと、ずーっと待ってる。だから逆だったらキミも待ってて」
私は笑って言えていただろうか。
「……僕は待ってるか分からないぞ」
そう言ったキミの顔は嘘をついているときの顔だった。
4/3/2024, 11:23:58 AM