夜の瀬戸内は星の揺りかごのごとく、あまやかな晦冥のブルーを敷き詰めて、星のおもてからわたしのまなこまでは、糸がひとつ濡れたように張られる。その深い詞海から、古い情緒へと言葉が落ちるようにと、とうめいな永い指のことを感じたり、天からばらまかれた光が巨大な花茎の無限に裂けた形になって、わたしの吐いた気息をまた呑ませたりする。そして手持ち無沙汰に、あなたもこの星空を知っているのだろうと思う。そうすると眼窩の奥にじっと滲むものがあり、天国のためにためておいた涙も暗い波際からこちらに歩いてきて、あなたに手紙を返せなかったわたしのこともやはり繋ぎ止めている。手を取り合っては離れる夜の雲たちが、伝えられることのなかった人の愛のすべてを知っているなら、彼らにだけは、あなたを心で抱きたいとはじめて吐きだしてもよかった。こんなに綺麗な世界の、わたしのために置かれた少しの場所で、わたしは今、わたしだけの初夜を、一人迎えている。
#不完全な僕
8/31/2024, 7:14:00 PM