「まだ枯れてなどいない!」
彼は大きな木を背にして言った。木は大きいものの、今にも倒れそうなほどその幹は不安定だった。
そんな樹の様子を見かねたひとたちは、彼のいうことなど聞きはしない。
彼の目の前には、樹や植物を刈り取ろうと、巨大な機械が待ち構えていることもあった。それでも、彼は怯まずに手を広げ樹を守り続けた。
雨の日も、雪の日もそれが芽吹くのを待ち続けた。
私は暖かくなった外に出て、樹のもとに行った。そこは植物が茂り、花が咲き乱れていた。
大きかった樹は、さらに大きく太くなって、その枝には満開の桜が開いていた。
その根元に彼は横たわっていた。
私は、摘み取った一本の花を彼に献げた。やがて彼は植物たちに染み入るように消えていった。
2/20/2024, 9:46:47 AM