裏表のないカメレオン

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 鴨川は言わずと知れた散歩道だ。
「ちょっと歩く?」
 言われてすぐ、気を遣われてるのだと僕は思った。
「そうですね」
 映画を観たその足で出町柳まで歩くことになった。川はぬらぬらと黒光りしながら横たわっている。
 それが恰も自分の心を映しているかのようで思わず目をそらす。
「マーベルおもろいなあ、やっぱ」
 気まずい空気を断ち切るように先輩は言った。
「面白かったです」
 落ち込んでる僕を励ますため映画に誘ってくれたうえ、こうして優しい言葉をかけてくれる。
 まったく、人生の先輩には頭があがらない。
「……あの、いつもありがとうございます。気にかけてくださって」
 先輩はなにも言わない。しだいに葦が生い茂り、水面が見えなくなった。
 たまには散歩もいいな。いろんな気づきを与えてくれる。
 夜空って、黒いんだな。こんどは青い空を眺めにくるとしよう。

1/26/2024, 11:33:09 AM