おさしみ泥棒

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 病室のドアを勢いよく開ければ、「うおっ」と驚いたような声がした。ベッドの上に横たわった志島が、目を丸くして俺を見ている。

「びっくりした。そっと開けろよ」
「…………」

 肩で息をしながら病室の入り口に突っ立っている俺に、志島は「大丈夫?」と言った。俺が「は?」と返せば、志島は「いや、顔真っ青だから」と言った。この状況で他人の心配をする奴があるかと思ったが、そんなツッコミを入れる余裕はなかった。
 頭に巻かれた包帯と、頬のガーゼ。それから瞼の上の赤い生傷が痛々しい。口角を上げたら傷口が引き攣れて痛いだろうに、そいつは俺の顔を見て、あはは、と笑った。

「あんた、なんて顔してんだよ」

 そう言ってからおもむろに上体を起こそうとするので、俺は慌てて駆け寄って「ばか、起き上がるな」とその両肩を押さえた。

「安静にしとけ」
「なんだよ。抱きしめてよしよししてあげようと思ったのに」

 志島は不満げに唇を尖らせながらも、おとなしく枕の上に頭をおさめた。
 いつもの軽口を叩けるくらいには回復しているようだ。そう思ったらふっと力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになった。眼前の男に悟られないよう、足に力を込める。

「……調子は」
「いい感じー。ピンピンしてるよ。俺よりあんたのがよっぽど死にそうだけど」

 揶揄うようにほっぺたを指先でつついてくる。「やめろ」と引き剥がそうとして掴んだ手首から手のひらに、たしかな体温が伝わってきた。数時間前に触ったときは、ぞっとするほど冷たかったのに。
 志島の手にふれた自身の指先が小さく震えていることに、今気づいた。我に返ってぱっと手を離したが、志島にはきっとバレてしまっただろう。その証拠に、俺を見上げるその顔はにやにやしている。

「なに、泣いてんの?」
「うるさい。泣いてない」
「そうかそうか。大好きな俺のことが心配で心配で泣いちゃったか」
「だから泣いてねえ!」

 思わず声を荒らげた瞬間、今度はほっぺたをむにっとつままれた。

「はい、病院内ではお静かに」
「…………」

 どこまでいっても憎たらしい。お前みたいな奴なんかのために泣いてやるものか。不覚にもうっすら張っていた涙の膜を、俺は乱暴に拭い去ったのだった。

【テーマ:泣かないよ】

3/17/2026, 11:23:51 AM