織川ゑトウ

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『千年恋歌(せんねんれんか)』

千年も前に死んだ人に恋をするのはおかしいことでしょうか。
私は誰にも恋したことがありませんでした。
母に聞くと「もっと将来性のある人にしなさい」と言われ軽蔑されました。
父は「もっといい男を探せ」と良家とのお見合いにだされました。

そんな中見つけたのです。
桜色の書物の中にひっそりと佇む貴方を。
調べてみると、どうやら貴方は千年も前に死んだようです。
黒色の和服を身に纏い秀麗な目は何かを静かに見つめていました。
何を見つめているのだろう。
ふと、そう思い貴方の目が向く方を見ました。
しかし、そこだけが焼けており何も見えませんでした。
ですが、貴方の目は非情に優しく、まるで命よりも愛しい人を見つめるような……
愛人、でしょうか。その目に映る哀愁は誰かを思わせました。
嗚呼、結局私の恋は最初から終わっていたのですね。

それから途方にくれ、一瞬の恋心を懐かしむように深い眠りにつきました。
夢の中では、貴方と顔の見えない…女性が居ました。
仲睦まじく子供と戯れる様子は親しき家族と見えました。
手を伸ばしてみましたが、届くことはなく、寒い冬の中目を覚ましました。

外にちらつく雪が気になり、少し外に出てみました。
「……あれ」
……何故でしょう。私が恋した貴方が、痩せ細った姿で、静かに眠っていたのです。
……嗚呼、何故気づかなかったのでしょう。
あの写真の、あの夢の中の女性は私だったのです。
手を繋いでみようとそっと貴方に触れましたが、触れれませんでした。
私の手は透けていたのです。
「……ごめんなさい」
こんな姿になって、私の骨を抱いて寝ている。
きっと、貴方は私を誰よりも愛してくれていたのでしょう。
黒色の和服は色が落ち、真っ白な雪に映えました。

「千年も前に死んだ人に恋をするのも、以外と悪くないものですね」
そう言い、またあの日のようにもう居ない貴方と私の為に、青い花をそっと添えるふりをしました。


お題『失恋』

※秀麗=他のものより一段と立派で美しいこと。
※非情=感情をもたないこと。今回はもう死んでいて感情を持っていないが、死んでも    妻のことを思っているという意味で使わせていただきました。写真では死んでいませんが、妻さんにはそう見えたようです。
※哀愁=「寂しさ」や「物悲しい」様子。

6/3/2023, 1:05:36 PM