見つめられるとドキドキする。
だって、あの人の瞳に私が映ってる。
気恥ずかしくてつい髪を耳にかけてしまう。
その仕草さえ見つめられていると思うと耳まで赤くなっていく。
「あ……いいね。そのままじっとしてて」
貴方の瞳に私はどう映っているんだろう。
私じゃなくてもモデルはいくらでもいるはずなのに、どうして私に頼んだの。
完成された絵を見て私は息を飲む。
私、こんなに綺麗に見えますか?
背景にある夕日が眩しくて、神秘的に見えてしまう。
「これが私、ですか?」
「そうだよ」
「これはちょっと……買いかぶりすぎですよ」
「そうかな。僕はありのままに描いたつもりだけど」
まるできみは美しいと言われている気分だった。
自惚れだってわかってる。
それくらいこの絵に価値を感じたの。
「なんか、口説かれてるみたいです」
「口説いてるんだよ」
貴方が私に近付くから、私は驚いて一歩下がる。
「え」
近い……近すぎて心臓が持たない。
「きみは綺麗だ」
そんな真剣な顔で言わないで。
誤解、しちゃうから。
「わ、私、帰ります」
描いてもらった絵は持って帰れなかった。
だってこんなの重すぎる。
貴方の言葉ひとつでこの絵の価値がぐんと上がる。
そんな高価なもの、貰えないよ。
「……本当に好きだったんだけどな」
ぽつりと呟く貴方の声は私の耳には届かなかった。
あの時受け入れていれば何かが変わっていたかもしれないのに、私はそれが怖かった。
変わってしまうことが怖かった。
#16 見つめられると
3/29/2023, 12:15:00 AM