ちょっとした小悩みがある。
小さい頃、虫や蝶をとるのが楽しみだった。捕まえると、その美しい羽や形をじっくりと観察する。そのうち標本というものがあるのを知った。美しい姿をそのまま残せるなんてと標本を作り始めた。上手に作るのは、なかなか大変だけれど夢中になった。
大人になって、自分で作らなくなっても標本を見るのは好きだった。博物館などで機会があれば、時を忘れて見入った。
でも、仲の良いあの人は虫が苦手だ。秋の枯葉が舞う公園を一緒に散歩している時、トンボが横切っただけでもビクビクしている。
ああ、もっと親しくなって家に来ることがあったら。あの引き出しに、大切な標本がひとつ入っている。あれを見たらなんて言うだろうか。自分のことを嫌いになってしまうのではないか。
そのことがずっと気がかりなのだ。
「秘密の標本」
11/3/2025, 7:29:18 AM