【お祭り】
ざわざわと騒々しい人々の声と、祭囃子の音色が重なり合う。吊り下げられた橙色の提灯が、並んだ屋台を鮮やかに照らしていた。夏祭りの夜は熱気に溢れ、いつも以上に蒸し暑い。屋台で買い込んだ食事を詰め込んだビニール袋を揺らしながら、僕は慣れない下駄で人並みを掻き分けた。
森の奥へと続く脇道へと抜ければ、一気に人の気配がなくなる。木々が運ぶ風は清涼で、いつしか喧騒もすっかり遠ざかり僅かな祭囃子の音色と僕自身の足音だけが、ゆったりと鼓膜を揺らしていた。
「来たよ、久しぶり」
朽ちかけた祠の前で声を張り上げる。そうすると祠の影から人影が覗いた。昔は随分と大人に見えていた姿は、今ではあどけない子供のそれにしか見えない。その事実が少しだけ寂しかった。僕に流れる時間と君に流れる時間は異なるのだと、改めて眼前へと突きつけれているようで。
「やあ、久しぶり。今年も飽きずに来たんだね」
柔らかく微笑んだ君へと、ビニール袋を差し出した。焼きそば、たこ焼き、フランクフルト。一人で食べるには多いけれど、二人で食べるにはちょうど良い。
君がどういう生き物なのか、厳密には僕は知らない。お祭りの夜にしか姿を見せない、僕の人ならざる友人。幼い頃にこの祠の前へと迷い込んでから毎年、こうして君のもとを訪れては、横並びで地面に座り込み言葉を交わす。それだけで僕には十分だ。
遠く響く和太鼓と笛の音に耳を澄ませながら、僕は一年に一度だけの君と過ごすひとときに身を委ねた。
7/29/2023, 5:40:45 AM