【現実逃避】
「なあ峯。お前、ハリーポッター観たことあるか。入る寮を振り分けるあの帽子あるだろ。俺達があれ被ったらスリザリン行きになんのかな」
「は?突然何なんです。早く書類に目を通してサインしてください」
「峯はレイブンクローな気がする」
「会長」
「でも俺ハリーポッターは秘密の部屋までしか観てねぇんだ。ドビーって憎めねぇよな」
「知りませんよ。そもそも俺はハリーポッターなんて観たことありません」
峯は面倒くささを隠すことなく眉間に力を入れた。少しイラついている峯を気にもとめず大吾は机に頬杖をついてペンを回す仕草をする。
「あーあ。俺がこの万年筆を回したら全部の書類が頭ん中に入ってきてサインも書かれてりゃいいのに」
「会長、現実逃避もいい加減にしてさっさと仕事してください。そんなくだらないことばかり考えてるからいつまで経っても書類が減らないんですよ」
いくら毒づいたところで大吾は上の空だ。これは長期戦になるかもしれない、と諦念を持ち始めたとき。書類から完全に逸らされていた顔がふいに峯に向けられる。
「なあ」
「なんですか」
「キスでもしねぇ?そうしたら仕事すっから」
至極真面目な顔で言い放たれた大吾の言葉に、峯は何度目か分からないため息を吐いた。
2/28/2024, 4:56:43 AM