ゆりあ

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月に願いを

「星よりも月に願い事した方が叶いそうだよなぁ」
「…どうしたよ急に」

いつもながら突拍子もない事聞くなぁなどと思うが、そこまで突っ込む気もない為そのまま会話を続ける。

「いや別に星を卑下してる訳じゃないけどね?ほら月の方がデカいじゃん。月の方が叶いそうだしデカい分オトクだよきっと。」
「お前は何を言ってるの?」

流石に突っ込むぞこれは、とツッコミどころしかない発言にその名の通り突っ込む。そもそも星を卑下ってなんだよ

「いやほら、本にありそうじゃね?月に願いを、みたいな」
「星に願いを、とかは一定数ありそうだけど月は聞いた事ないぞ…」
「先入観を消せばいいんだよ!ほら、「月が綺麗ですね」とか言うだろ!?その点星より月の方が偉大!!」
「ちょっと何言ってるか分かんない」
「なんだと!?お前夏目漱石を馬鹿にするつもりか!?」
「ほんとに何言ってるか分かんない」

いや確かに夏目漱石が“ILoveYou”を“月が綺麗ですね”に訳したのは有名な話だけども。マジでコイツは何を言ってるんだ。お前の発言には夏目漱石も月もびっくりだろ。

「…いやまぁ脱線したけど。だから、月に願い事しても叶いそうだよなぁ」
「…何かお願いしたい事でもあるのか」
「ん?…んー…」

はっきりしない返答に疑問を持つが、コイツの事だ、大した願い事じゃないのだろうと思った矢先、その言葉は飛んできた。

「…月が綺麗ですね」
「…は?夏目漱石にでも影響されたかよ」

急な言葉への驚きと、所詮照れ隠しでツンとしたような言葉を返す。

「…今言ったら叶うかなって。ほら、丁度今日は満月だ。」
「…あっそう。」

返答を待っているのかなんなのか、俺の方を見てくる。月明かりに照らされたお前はどうにも綺麗で──

「…今なら手が届くかもね」
「え」

なんて言いそっぽを向く。星じゃなく月に願っても叶うのか、なんて馬鹿らしい事を考えながら、背後で何か言っているアイツを無視し歩き出す。

「…ずっと前から、月は綺麗だったよ」

5/26/2024, 11:50:53 AM