与太ガラス

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 イルミネーションを見ると、冬が来たんだなって感じる。街を飾る寒色系の光を見てもそう思うし、家々で楽しんでいる温かい灯りを見てもそう思った。クリスマスに沸く世の中を割とサバサバしながら眺めていた私は、ここの電気代は気にしないんだなとか、冬は電力需給率が低いから何も言われないんだなとか感じてしまう。

 もしかしたらそんな感情は、やり込み癖のある自分へのブレーキだったのかもしれないと、パン屋さんのバイトになって思った。

「ヤマノさんが戻ってきてくれて助かったわ。でも病み上がりだからあんまり無理はしないでね」

 インフルから戻ってきた私に、店長は優しい言葉をくれた。ですが店長、私をクリスマス飾りの担当に再任命したってことは、そういうことですよね。

 商店街のパン屋さん「ブーランジェリー・ジュワユーズ」の簡素なイルミネーションは、私が休んでいる間に飾り付けが終わっていた。その時点ではいつも店長から振られる面倒な仕事を回避できてラッキーぐらいに思っていた。「バイト募集」の貼り紙以来、いつの間にか筆耕係にされていたこともあり、雑用の指令には敏感になっている。

 ただ、店のイルミネーションを一目見ただけで、これじゃない感に気づいてしまった。ほんの一瞬、ほんの一瞬だけ絶句しただけなのに、店長は私のその仕草を見逃してはくれなかった。

「さすがヤマノさん、わかってしまったみたいね」

 クリスマスの飾り付けなんて、イルミネーションなんて自ら買って出るような人生じゃないと思ってた。でも自分がいる店が、ダサい外観をしているのがこんなに嫌なものだとは思っていなかった。私と店長はすぐに緊急ミニ会議を開き、問題点を洗い出した。

 その矢先の「あんまり無理しないでね」だからあまり説得力はない。

 いざやり直すとイルミネーションの奥深さがわかってくる。ライトの配色から付ける角度、ツリーならどれくらい幅を空ければいいか、調整しては離れて確認を繰り返す。やばい、楽しくなってきた。

 脚立を使って店内の装飾もやり直すと、冬なのにひと汗かいてしまった。出来上がりを見ると妙な達成感がある。

「やっぱりヤマノさんに任せて正解だったわ。来年もよろしくね」

「あ、はい」

 あれ? いつの間に来年もいることになってる。ま、いっか。

12/15/2024, 5:27:24 AM