藁と自戒

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窓から差し込む光がカーテンを貫き、心地よい暖かさが顔を包む。のっそりと上体を起こし、伸びをする。ベットから身体を降ろしてキッチンへと向かう。冷蔵庫から珈琲を取り出すと、徐に口へ運ぶ。苦味が口から全身へと循環し、忽ち意識は覚醒する。カーテンを勢いよく開け、部屋中を光が包む。今日はいい日だ。鳥たちは歌い、花は咲きほこる。こんな日には、、、

夜が明けた。硝煙の匂い、大地は揺れ、辺りには明瞭に陰鬱な瘴気が立ち込めている。前方に視線をやると、キャタピラによる轍が、何本か真っ直ぐと走っている。最前線で一層大きな爆発音がした。血で血を洗う戦いその先にあるものなどわからない。私達は愛国を誓う戦士であるものの、所詮は労働者に過ぎないからだ。どの道、どう足掻いても親友は帰ってこない。圧倒的な優勢。休憩時には酒瓶を片手に歌い出すものも現れるほどの優勢だ。時期に本国に帰れるだろう。しかし、爆死した親友の無惨な死体だけは網膜に焼き付き、アルコールでは流しきれなかった。見た事もない程に眩い閃光が辺りを埋めつくした。

空を見上げると常に焼夷弾が降っている。辺りの森林は全て焼き尽くされ、家屋も焼け落ち、燃えるものはもうないと言うのに。これが工業大国による戦争なのだろう。あるものは使ってしまえの精神で過剰とも言える膨大な量の兵器を投入しては更なる兵器の開発への足がかりにする。同じヒトの死であるというのに、家族全員に病院で看取られ、孫の号泣を傍らに息を引き取る老人と、荒野を掛け地雷を踏み抜き跡形もなく爆散する少女とでは価値が変わってしまう。兵器によって殺される命は1人、2人と多くなるにつれ、354,000、354,001と唯の数字へと変わっていく。ぬくぬくとした実験室でデータを見つめる彼らにとって数字の奥に沈んだ人間の顔なぞ想像したくないのだろう。その354,000人の人間1人1人に家族がいて、愛し、愛され産まれてきたと言うのに。そんな戦争ももうじき終わる。私達の大敗で終わる。だけど最後に神様が救済をして下さる。愚かな人類に鉄槌を今1度、想像を、

この話は、よく小、中学校の平和学習向けにするお話なのだが、最近の子供たちは読解力が乏しいのか、それぞれを別の話だと捉えてしまったり、はたまた脈絡がなさすぎてよくわからないなどと言ってまともに取り合おうとしないのだ。その癖、漫画ばっかり読んでいるからなのか、「伏線」がないだとか、「説得力」がないだとか言う。それは「唐突」にやってくる。「伏線」など張る暇もなく。「説得力」のある破壊などあるもんか。
それは今日にもやってくる。

-焼け焦げた大学ノートより、題「日常」-

#日常

6/22/2023, 12:31:00 PM