Ryu

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今でも思うんだ。
もしも君が、あの時、車道に飛び出してきたりしなければ。
僕の運転する車の前に、突然飛び出してきたりしなければ。
僕の運転では、君を避けることが出来なかった。
あとで知ったところによると、歩道を歩いていた酔っぱらいの男にぶつかられて、君はよろけ、車道に飛び出してしまったという。
それも運命だったと片付けるには、あまりにも僕の人生を大きく変える出来事だった。
そして、君の人生も。

君にぶつかった男は、君が僕の車に跳ねられるのを見て、慌てて逃げていったらしい。
もしも彼に、どこかで出会うことがあるのなら。
いったい何を伝えるだろう。
あなたのおかげで…いや、それはちょっと違うか。
でも、今では彼を見つけ出したい気持ちも大きくなってきた。
まさか彼も、こんなことになるとは思いもしなかっただろう。
運命のいたずらが、こんなことを引き起こすとは。

君の両親にも会いに行ったよ。
彼らから、君を奪ってしまったことに大きな罪悪感を感じていた。
だから僕は、君の父親の前で、必死に頭を下げた。
きっと君は、彼らの宝物だったろう。
それを僕は奪ってしまったんだ。
でも、君の両親は、許してくれたよ。
悲しいけどこれは、仕方のないことなんだ、と。
これからは君が、その責任を感じて生きていってほしい、と。

もしも君が、あの時、車道に飛び出してきたりしなければ。
僕の運転する車の前に、突然飛び出してきたりしなければ。
僕達二人は、結ばれることもなかっただろう。
ケガをした君を介抱し、病院まで車で運び、治療して入院となった君を、毎日のように見舞った。
そしてそのうち、お互いに恋心が芽生え、退院とともに交際を始めて、来月には結婚する運びになっている。

だから、酔っぱらいの彼には感謝したいくらいなんだ。
君と僕を引き合わせてくれたことを。
そして、僕たちの結婚を許してくれた君の両親にも感謝してる。
事故の件では彼らを心配させてしまったけど、もう二度と君を傷付けたりしないと、心から誓うよ。
必ず君を、幸せにする、と。

6/14/2025, 5:48:27 PM