「私たちが選ばなかった道」
数年ぶりに都心のど真ん中へ。
用事を済ませ、都会に出たついでにと、住んでいる地域には出店していないカフェでお茶をし、買い物。
東京駅に着いた時には、帰宅ラッシュ直前。
人混みを掻き分けて新幹線乗り場へと向かう。
「え……」
思わず振り返る。
今すれ違った人、あの後ろ姿、もしかして……
目を凝らしてみるものの、人混みに紛れ見失ってしまった。
改札を抜け、エスカレーターで運ばれながら、あの日のことを思い出す。
ここで最後に会ったことを。
それぞれ別の道へ進むと決めたときのことを。
あの人は、私と一緒にいたいと願った。
だけど、私は自分がやりたいことを選んだ。
あの人にも、周りにも、よく考えろと言われたけど、私は自分の意見を曲げなかった。
結果的に、私はそれでよかったと思っている。
遠距離恋愛中と思しきカップルが抱き合っているのを横目に、ホームに停車している新幹線に乗り込む。
結構混んでいる。
予約した席に着いて窓の外を見ると、ホームのカップルはまだ抱き合っていた。
私たちが選ばなかった道── 遠距離恋愛を選択した彼らが、幸せになることをひっそりと願う。
ゆっくりと走り出した車体のスピードが上がると、まるで日常から切り離されたような気分になる。
窓の外の景色を見ようとしても、見えるのは自分の顔。
あれから、もう十年経つ。
あの時から、連絡を取り合っていないから、今どこで何をしているのかわからない。お互いに。
もしもあの時、私の選択が別のものだったなら。
そう思う時は、たまにある。
だが、後悔はしていない。
たとえ時を巻き戻したとしても、私は同じ選択をするだろう。
これだけは、断言できる。
今の私の幸せは、あの人と別の道を選んだ上に成り立っているのだ。
だから、パラレルワールドなんて、もうひとつの物語なんて、考えられない。
ねぇ、あなたは「俺がお前を幸せにするんだ」なんて言っていたね。
あなたがいなくても、私は今、幸せに暮らしているよ。
どうかあなたも他の誰かと幸せに暮らしていますように。
────もう一つの物語
10/30/2024, 3:12:49 AM