ハクメイ

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耳を赤くする風が、いっとう強く吹いた。
文句の如く咳払いをしたのは、40代後半程の、黒いジャケットを着た男性だった。
枯れ木しかない並木道の中央には、堂々と規制線が張られ、男性はその線の中に堂々と入る。
周りにいた警官が労いの言葉をかけ、事件の状況、現状を説明し始めた。

耳と鼻を赤くする風が、いっとう強く吹いた頃。
辺りはすっかり暗くなり、街灯が淡く光る。
規制線は解除され、警官達も撤収し、何も知らぬ人々が、その上を歩いていく。
そんな様子を、不服そうに男性は見つめていた。
「ニキ、お疲れですね〜。肩でも揉みましょうか?」
背後から聞こえたのは、若そうで、元気そうで、おとなしそうな、女性の声だった。
振り返るのもめんどくさそうに、ニキ、と呼ばれた男性は、その女性と話し始める。
「いらねぇよ、そんなもん。どうせなんか持ってきたんだろ、やなぎ。」
やなぎ、と呼ばれた女性は、男性の前に回り込み、正解と言わんばかりに笑う。
ベージュの髪が肩下まで伸び、カーキのコートが夜風に揺れる。
大人びた20代ほどの顔が、その笑顔を作っていた。

「そうですよ。木枯らしが身に染みるこんな夜に、考え事をしているニキの為に、悩み事を解決するお品をお持ちいたしました。」
「なんだ?」
「あれ?いつも『だからニキじゃねぇよ』なんてツッコんでくれる警部が、そのまま素通りなんて。
本当に疲れてるじゃ無いですか!」
「疲れてるわ、見てわかるだろ。で?だから、なにしにきたんだ?」
さっさとしろと押し通す様に、語気を強めた男性警部に、やなぎは、はいはいと話を続けた。
「今回の事件は、ぱっと見ただの事故です。
被害者は軽傷。犯人も見つかって自供し、その辻褄も、目撃証言も、特に不審な点は無い。
でも、貴方からしたら、とてもおかしい。反吐が出るほどに、赤を青と言っているかの様に。」
男性警部は黙り込む。
「そりゃそうですよ。貴方は普通の人間とは違って、"想い"の力を感知できてしまう。
だから気持ち悪いんです。真相を少しだけ感じてしまうから。」

やなぎは、コートのポケットから、何かを取り出した。
それは手のひらサイズのスコップで、ガチャポンの商品にありそうな、ミニチュアさだった。
「これは依頼の報酬でもらった物です。これを地面に突き刺すと、その土地で死んだ人の記憶を、再生することができます。」
「代償は?」
やなぎが優しそうに微笑む。
「それを忘れない人で良かったです。
代償は、"一度見始めた記憶を、最後まで見ること"です。逃げも隠れもできない。そんな代償です。」
男性警部は、鼻で笑い、そのスコップを手に取った。
「んなもん、最初からそのつもりだ。ありがとうな」
男性警部は、肩を回しながら、先ほどまで規制線が張られていた場所に向かって、歩き出す。
その後ろ姿を、やなぎは木に寄りかかりながら、じっと見守る。
「『墓暴き』。"死人に口無し"という死の概念を、堂々と壊してしまう、そんな代物。警部なら、有効活用してくれますもんね。」

お題『木枯らし』×『死の概念』

1/18/2026, 1:33:59 AM