ゆかぽんたす

Open App

昨日書くの忘れて悔しかったから、
昨日と今日のお題
「優しくしないで」「二人だけの秘密」
2つ合わせて書く。









「今から帰り?」
下駄箱で靴を履き替えてる時、後ろから話しかけられた。この声まさか、と思いながら振り向く。やっぱりそうだった。なんで、そんなふうに普通に会話ができるの?その神経が信じられないでいると、彼は私に向かってにこりと笑った。
「今から帰り?それとも部活?」
「……帰るとこ」
「そっか。じゃあ駅まで一緒に行こうよ」
何言ってんの。私は返事をしなかった。無視する形で昇降口を出る。ところが彼はあとをついてくるではないか。
「寂しいなぁ、無視しないでよ」
それにも私は答えず、前だけ向いてせっせと足を動かした。なかなかの速歩きなのに彼はちっとも焦らず穏やかな顔のまま私の斜め後ろをついてくる。もう、なんなの。
「……なんなの」
「うん?」
「なんでそうやってつきまとうの。もう別れたじゃん、うちら」
そこで初めて彼のほうに顔を向けた。ドキリとした。へらへら笑ってるかと思ったのに、彼はひどく真面目な顔で私を見ていたからだ。私は思わず足を止めてしまった。同じように、彼も止まる。
「なんなのよ……」
「別れてないよ。あれは君が一方的に話を纏めたんだ」
「そんなことない。そっちも最後は“そうしよう”って言った」
「あの時は、君の言うとおりにしなきゃいつまでも平行線だったから」
「じゃあ私のせいだったって言うの?」
ムカつく。こじれたのも、結果こうなったのも私が悪いって言いたいわけね。だったら尚更放っといてよ。こんなふうに時間があいてから近づいてきたりして。今更すぎるよ。本当、今更優しくしないでよ。
「俺の気持ち、1度も聞いてくれなかったよ、君は」
彼は1歩近づいて私に真正面に立った。今日の彼は雰囲気が違ってなんだか怖い。だから私も次の言葉が出なくなってしまった。
「好きだったよ、ずっと。でもって今も好き。俺は君のことが好き」
大した事ない力なのに、彼に腕を引っ張られて私は前に倒れ込む。そうしたら、強く優しく抱きとめてくれた。ハッとして慌てて離れようとしてもできなかった。
「勝手に離れてくなんてずるいよ」
「そんなの、」
知らないよ。言いかけて止めた。知らなかったんじゃない。私が彼の話を聞いてあげられてなかったんだ。だからやっぱり、私のせいだ。私のせいで彼を傷つけてしまった。思い知って、涙が出た。静かに泣き出す私の背を優しい手が擦ってくれた。ごめんね。こんなふうに強がって、ごめん。言いたくて、でもうまく言えなくて。こんなの卑怯だと思いながらも私はひとしきり泣いた。
「戻ってきてよ。俺のそばに」
「でも、そんなの私、身勝手すぎる」
「俺が良いって言ってるんだから関係ないでしょ」
こんなふうに、彼はいつも優しかった。その優しさに私は甘えすぎてた。だからあんまり優しくしないで。また私は付け込んじゃうから。泣きながら、お願いする私に彼は笑ってみせた。いつもの知ってる、大好きな笑顔だ。
「甘やかすと優しくするは別ものだよ。俺は君を甘やかしてたつもりはない」
「そうかもだけど……」
「ついでにもう1つ、教えてあげる。俺が優しくするのは、君にだけだよ」
秘密だよ。最後に悪戯げにそう言って彼はぎゅっと抱きしめてくれた。優しい声と裏腹にとても強い力だった。
ごめん、好き。それだけなんとか伝えて、私は彼の胸に顔をうずめた。



5/3/2024, 10:28:42 AM