「おやすみ、僕のお月様。」
僕は今日も、届かぬ君に手を伸ばす。
「こんな世界、大っ嫌いだ。」
昔の僕は、いつもそう呟いていた。生まれつき片目が不自由な僕は、何処かが欠けていた。何をしても心が満ち足りる事はなかった。彼女と出会うまでは。
「ねぇ、月の形は何が好き?」
唐突に投げかけられた問いに少し戸惑う。
「…満月かな。完璧な姿で憧れるよ。」
「君らしいね。私はね、三日月が好き。」
僕がどうしてと聞くと、彼女は答えた。
「完璧な姿よりも、欠けながらも私達を照らす姿の方が美しいもん。」
目を細めながら微笑む彼女に、月明かりが当たる。昔の人は、地球が中心か太陽が中心かで争っていたと言う。でもこの瞬間、僕の中では彼女が全ての中心に見えた。
「それに三日月は人間みたいだからね。皆何処か欠けていて、それでも生きていて美しいよ。」
「…君は、君には欠けている所があるの?」
咄嗟に思っていた事が口から出た。そんな僕の問いに彼女は少し悲しそうにした。
「…命、かな。」
「それってどういうこと…?」
「私、病気なの。もう助からない。」
涙が止まらなかった。止めようと思っても、どんどん溢れてきた。彼女も泣いていた。
「欠けていても、君は綺麗だ。僕のお月様。
「愛してくれてありがとう。」
彼女の墓に手を伸ばす。空には三日月が浮かぶ。
「今日も月が綺麗ですね。」
1/9/2026, 4:02:45 PM