「ぶっちゃけ、『イブの夜』っつったって、コレ投稿してるのイブの次の日の夕暮れだけどな」
まぁ、このお題が来るのは予想してた。某所在住物書きは自室でパチパチ、鶏軟骨の塩焼きを作り、ちまちま独りで食っている。
イブの夜をネタにしたハナシなど、その夜の過ごし方程度しか思い浮かばぬ――特にクリスマスイブの。
「他に『イブ』って何あるだろうな。イブって名前の人の夜とか?それとも某パラサ◯ト・イヴとか?」
3作目、PSPのやつ、俺は「3作目」と認めちゃいないが、レンチンバグには世話になったわ。
物書きは「イブ」をネット検索しながら、ぽつり。
……そういえばこの名前の鎮痛薬があった。どう物語に組み込むかは知らないが。
――――――
イブの夜に、子狐ちゃんから手紙を貰った。
稲荷神社に住んでる、狂犬病予防接種済み、エキノコックス対策済みの子狐だ。
多分神社で飼われてるんだと思う。
私の職場の先輩が、その神社の山野草とかお花とかをよく撮りに来る関係で、この不思議な不思議な子狐は、私の顔も覚えて懐いた。
子狐がイブの夜に持ってきたのは、A7サイズの小さな封筒で、見覚えのある手書き文字。
『あて所に尋ねあたりませんでした』
力強く、サラッと書かれた、でも綺麗な字は、
本当に確実に見覚えがあるのに、
先輩の字でもないし、先輩の親友の宇曽野主任の字でもなければ、今月で離職する付烏月さん、ツウキさんの字でもない――なのにすごく見覚えがある。
「『あて所』?」
心当たりは、無いでもない。
イブの前日の夜、この稲荷の子狐に「推しに手紙を出しませんか」って、封筒を渡されたのだ。
稲荷神社へのお賽銭のつもりで、1通、推しゲーの推しカプの、右の方に書いたけど、
彼は、ゲームの中の住人だ。届くハズが無い。
「そういえば、その推しの字に似てる……」
大事二度宣言。推しゲーの、推しカプの右だ。
3次元の手紙が2次元に届くワケが無い。
小さなA7の封筒を裏返す。
封筒はダークレッドの、すごく使い込まれたシーリングスタンプで封がされてて、
それは私の推しゲーの、推しカプ2人が勤務してる部署からの手紙をあらわすデザイン。
「世界線管理局 法務部執行課 実働班特殊即応部門」で使われているシーリングスタンプは、
10年くらい前、10本限定で、シリアルナンバー付きの3万円で商品化された。
抽選販売の倍率は酷いものだったらしい。
私はその頃まだ学生で、生活費もお小遣いもカッツカツで、抽選に参加すらできなかった。
その10本のうちの1本を持ってる人?
私の知り合いに、そんな幸運の人居ないけど……?
――…イブの夜に貰った手紙を持って、尻尾ぶんぶん振ってる子狐を抱えて、子狐の飼い主さんが店主をしてる稲荷のお茶っ葉屋さんに行ったら、
飼い主の女店主さんは子狐を受け取って、さも当然のように私に言った。
「あなたに子狐が渡したのであれば、
確実に、間違いなく、あなたへの手紙ですよ」
どうぞ、そのままお持ちください。
クリスマスイブが見せる夢の1個でしょうから。
女店主さんは小さく笑って、茶っ葉屋さんに来た私にクリスマスのティーバッグを勧めてきた。
クリスマスイブが見せる夢ねぇ(だって2次元)
夢ねぇ……(だって推しゲーの中の推しキャラ)
届くはずのない相手に届くはずのない手紙を出したから、「あて所に尋ねあたりませんでした」だったんでしょ、っていう(不思議)
「せめて、誰がこの手紙を子狐ちゃんに渡したかだけでも、心当たりありませんか?」
「さぁ?稲荷の子狐が為すことですから。渡すべき者が渡し、貰うべき者が貰うのは確かです」
「はぁ」
「ほら。子狐も言うております。
『真相を知りたければ、クリスマスティーと和紅茶のグランドクラスセットをご購入ください』と」
「すいません私には『キツネそんなこと言ってない』って顔に見えます」――…
で、自分のアパートに戻ってきた。
「イブの夜の夢ねぇ」
誰が子狐に手紙を渡したにしても、
この手紙にくっついてたシーリングスタンプがメッッチャ貴重で、メッッチャお目にかかれない推しグッズであることは、確かだから、
ひとまずパウダーで縁取りをして、
高額な方のレジンでキレイにコーティングして、
丸い時計の型枠にはめて、バッグチャームに。
「本当に、誰だったんだろう……」
レジンを固めるためにLED-UVライトを使ったら、
丁度、ライトと封筒の位置関係のせいで、封筒にもライトが当たった。
「あっ」
ライトの紫外線が当たって、封筒に書かれた全文が、光って浮かび上がる。
私が貰った封筒の文章には、続きがあって、
つまり、全文としてはコレだった。
『あて所に尋ねあたりませんでしたが、担当者にお声は伝えました』
12/25/2024, 3:23:43 AM