飽和人

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風が吹き、桜の木々が揺れ、どこからの木がひとひら、また別の一本からひとひらと桃色の花弁を散らしてゆく。儚くも美しい春の光景は、雫を落とし、波紋を広げる水面の連なりに近しいのかもしれない。また、体育館に大勢の生徒が集まり、集会開始前の各々の会話で溢れかえるあの時間に似ていたのかもしれない。

これから思い出の詰まった母校を立ち去る私には、今後一切見ることのできない光景なのだろうけど。

卒業式はもう終わってしまった。私と仲のいい友だちも、お世話になったり、絶対に波長が会わないと思った先生方も、私がよく知ることのできなかった、面識すらない同級生たちも、行事や部活で関わった後輩たちも、我が子に寄り添い、共に涙を流す保護者たちも、ありとあらゆる人たちが、まだこの場にいた。誰かが帰ってしまったような感じはしなかった。でも私は知っている。あと少し、長いようで短い時間が経ってしまうだけで、本当のお別れの時間が来てしまうことを。

みんなが別々の方向を見据え、新たなスタートラインに立とうとする時間が来ないことを祈った。ふざけ合う日々が、時には真剣になって、みんなで協力し合って物事に取り組もうとする、あの色濃い、鮮やかな日々を紡いでいたかった。でも時間は、流れは強制的な別れを許してはくれない。

傍にいた誰かがいなくなる。そんな寂しさを抱えている時に、ふと桜に目を向けてしまったのが間違いだったのだろうか。ひとひらずつ花を散らしていく様子を見ていると、まるでこれから散り散りになっていく私たちみたいだと錯覚してしまって、目から溢れた涙が頬を伝った。

4/13/2025, 1:53:42 PM