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好きな色。それはきっと、ふとした時に目につく色だったり、思わず選んでしまう色だったり、そういうのが選ばれるんだと思う。

すると私が選ぶのはきっと決まって赤色なんだろう。みんなが炎の色と言ったり、夕焼けの色と言ったり、血の色と言ったりするけれど、大好きな彼に聞いてみて帰ってきた答えはいつも決まっている。

「そう言われると難しいんだよなー……あぁでも、俺の髪は赤だわ。」

そう笑っていう彼の髪の色を、私は知らない。でもきっと、彼の色ならばとても綺麗なんだろう。
オシャレと言って伸ばし続けるロングウルフの髪は、触ると少し硬いけれどサラサラとした肌触りだ。

私の瞳は、色を映さない。どこを見てもモノクロな世界は面白さを感じることは出来ない。だから1度でいいからみたいと思い続けていた。

「私、一番最初に見る色は赤色がいいな。」
「お!まじ?赤好きになってくれたの?俺と同じじゃん!」

昔彼は話していた。赤色とは人間が生まれて初めて近くする色らしい。
その時から自分はきっと赤色が好きだったのだろうと。だからこの髪の色もお気に入りなのだと。

「うん。私、赤色好きだよ。」
「……ふーん、そっか。」

そういえば、照れた時も人の頬は赤くなるんだったっけ。見てみたいな、赤くなった君の顔。きっと、今みたいに顔を背けてもわかるぐらいに変わっているんだろう。そうだったらいいな。



「ねぇ、こっち見てよ。」
「え?なに。」
「はい。プレゼント。」

ずいっと押し付けるように渡された箱に驚きながらも受け取る。両手の上に乗るくらいの横長い箱には、一体何が入っているんだろう。

「なんで急に?」
「え、忘れてるの?マジで……?」

指さされたカレンダーを見てみると、そこには十年記念と書かれた今日の日付にはなまるが着いていた。そういえば、今日で私たちが出逢ってから十年だった。すっかり忘れていたと思って不機嫌そうな彼を見つめる。

「開けてみてもいい?」
「うん。」

丁寧に包装を剥がせば、そこにはメガネがひとつ。オシャレで可愛いけれど、レンズの色がサングラスのようになっている。

「かけてみて?」
「う、うん。」

少し怖くて、恐る恐るかけてみると、世界がガラッと変わる。

「どう?」

私の顔をのぞきこんでくる彼の髪が私の方をくすぐる。
長い髪だからか、思わず私はその髪を手に取ってしまう。その色は、今まで見てきた灰色ではなかった。

「……赤?」
「そ。これが赤だよ、お前が好きな色。」
「……赤、見える…」

他にもあるぞ、と彼は窓を開けた。そこから見えたのは空の色、芝生の色、お隣さんの家の屋根の色。
初めて見る色に染まっていた。

「……え?え?」
「色盲用のメガネだよ。いつかプレゼントしてやろうと金貯めてたんだ。」

呆然としている私の隣で、イタズラが成功したと言わんばかりの表情で私のあとをついてまわる彼。気づいた時には私の両目からは涙が溢れていた。

「どうだよ。初めて見る赤色は」
「……うん、やっぱり、私、赤色が一番好き!貴方の色である赤色が大好き!」
「そ、そうかよ……」

始めてま正面から見た彼の顔は耳まで真っ赤に染って、それを恥ずかしそうに腕で隠す癖は見える前もあとも変わっていなくて、それでも色づいた世界で見える景色は何倍も素敵に思えた。

6/21/2022, 2:50:21 PM