ミミッキュ

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"エイプリルフール"

「自分、千年以上生きたバイクなんだよねぇ」
「………………」
 十秒程の沈黙の後(のち)、大きな溜め息を吐く。
 吐き切った後、今日が《あの日》である事を思い出す。
 またこの日を迎えるとは。
「何そのデッカい溜め息」
「呆れてんだよ。……ったく、いい歳した大人がくだらねぇイベント事に乗っかってんじゃねぇよ。しかもガキみてぇな嘘だし」
「一言どころか二言も三言も余計。日付感覚狂ってないかな〜、って心配したのに」
「狂ってねぇよ。誰があいつの日付感覚整えてると思ってんだよ」
 前を横切って背負っていた空のリュックを、部屋の中央に鎮座するテーブルに置く。
「大我来てたんだ!」
 ポッピーピポパポが何処からかワープして現れた。驚いて半歩後ずさる。
「あ、ごめん……」
「別にいい」
「そういえば、ハナちゃん元気?」
 と柵の傍に積んでいた物資を次々とテーブルの上に置いていく。
「あぁ。聞いてると思うけど、検査は異常無しで予定通り来週。まぁ、手術日より前に発情の兆候が出たら手術が前倒しになるし、油断できねぇけど」
 ハナの近況を話しながら、リュックの中に物資を入れていく。全て入れ終わると「助かった」と言ってファスナーを閉める。
「これ、後であいつらと食え」
「お、センセーのクッキー。今回も大袋だねぇ」
「こんくらい作った方が息抜きになんだよ」
 そう言うと、「そろそろ行く」とリュックを背負う。
「もう行っちゃうの?」
「予定はねぇけど、これ以上いる意味ねぇし」
「そういえば、あともうちょいでこっち来るって言ってたなぁ」
 ぴたり、と思わず身体の動きを止める。どうせ嘘だろうと一瞬考えたが、傍の椅子を引いて腰を下ろし、リュックを膝の上に乗せる。
「分かりやすいねぇ」
「うるせぇ」
「ハナの検査終わるまで、どっかでデートして時間潰してたんでしょ」
 ぎくり
「未だによくデートするし、やってるし」
 にやにや笑い、後半ムカつく言い方でこちらを見ながら言ってきた。
「うるせぇ!」
 動揺で声が裏返る。
 顔も動揺で真っ赤になっているだろう。
 そんな俺を見ながら、熱々だねぇ、とコーヒーを啜る。
「騒がしいぞ」
 背後からの声に、ピクリ、と肩が跳ねる。
「お疲れー」
「お疲れさん」
 振り返って、声がした方に顔を向ける。
「来ていたのか」
 予想通りの人物が立っていた。
「あぁ、もう少ししたら帰るとこ」
 そう言うと向かいに座るレーザーが小声で、本当かなぁ?、などと言ってきたので、うっせぇ、とこちらも小声で返した。
「今回もクッキーを焼いてきたのか」
 テーブルの上の、クッキーが入った大きな袋を見ながら俺の隣に座る。
「お皿持ってきたよ」
 そう言って皿をテーブルの中央に置くと袋を開けて、クッキーを皿の上に出した。
「おいおい、まさかもう食う気なのか?本人いる前で食うな。せめてエグゼイドが来てからにしろ」
「いいじゃん。糖分補給だよ糖分補給」
「コーヒーに砂糖ドバドバ入れてるやつが何言ってんだか。糖尿病になっても知んねぇぞ」
「ちゃんと消費してますー」
「はっ、どうだか」
 すると、さく、という音が二つ聞こえた。音の在処を辿って顔を向ける。
「やっぱり大我のクッキー美味しー」
 ポッピーピポパポの言葉に、ブレイブが頷く。
「あ、ずるーい」
「『ずるい』って、ガキかよ」
 さっきの嘘といい、と続けると、うるさいでーす、と言いながら一枚を摘み、一口齧る。
「ん、やっぱ美味い」
「お前ら、エグゼイドの分も残しとけよ」
「バターの量を減らしたか?」
「あぁ、減らした分牛乳増やした」
「飛彩凄ーい」
「言われてみれば確かに、風味がちょっと違う」
 クッキーの、さく、という音が鳴り響く室内。リュックを手に持って立ち上がる。
「流石にこれ以上はハナがギャーギャー騒ぎそうだし、そろそろ行くわ」
 そう言いながらリュックを背負い、エレベーターへと歩いていく。
「クッキーあんがとさん」
「ハナちゃんによろしくね」
「また遊びに来てやってくれ。あいつ体力お化けでいつも有り余ってっから」
 そう言うと、うん!、と頷いた。
「またな」
「あぁ、また」
 ブレイブと言葉を交わし、エレベーターに乗り込んでボタンを操作すると扉がゆっくり閉まり、小さな稼働音と共に上昇を始める。
「……やっぱ鋭いな、あいつ」
 小さく呟くと、ふわりと口角が上がるのを感じた。

4/1/2024, 2:41:27 PM