髪弄り

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※また長くなりました。

「ごめんなさい」
彼女はすまなそうな顔で謝った。
「君とは友達だと思ってた」
その言葉は、どんな刃物よりも鋭くて、
僕の心は滅茶苦茶になった。
2年前の出来事だ。僕は幼馴染に告白した。
理由は勿論、僕に気があったというのもあるし、彼女が思わせぶりな態度を取ってたからというのもある。きっとそれは思春期少年特有の淡い恋心、いや第二次性徴の発達の見せた幻想に過ぎなかったのだろう。

あれから酷く態度を気にするようになった。発言一つ一つに気を遣い、相手の動作を逐一観察した。その人がどう生きて、どう思っているか、わからないときは聞いた。
でもそのやり方は、探偵やFBIがやるように、決して相手にとって居心地のいいものじゃなかった。

嫌われた。社会に出ても一人だった。

「人の心がわかるようになりたい」
そう願った。

ここは街外れのドヤ街、治安の悪さで日本一有名だ。すれ違う人の目つきは鋭いか、焦点があってないか、昼夜問わずに嬌声が飛び、時たま赤い何かを見つける。
そんなおかしな場所に私は来ていた。
「交換屋って知りませんか?」
比較的話が通じそうな人を見つけては、私は同じ質問を繰り返していた。
「知ってるよ、あんたそこに行きたいのか?」
「はい」
「三丁目の通りの二本目の路地を左に曲がって、あとはまっすぐ行けば、つくはずだよ」
「ありがとうございます」
スマホで検索をかけ、言われた通りの道を探す。相変わらず向いてる方向はわかりにくい。画面と周りを交互に確認しつつ、薄暗い路地裏を進んでいった。

悪趣味なネオンの看板に古臭い丸ゴシックの字で書いてある。
「交換屋…」
正直、ここが噂の場所とは思えない。
確かに怪しい雰囲気は満載で、普通ではないが、そんなのこの町にはいくらでもある。
単なる金属製の扉の一室で人の個性を入れ替えるなど可能なのだろうか。
しかし、ここまで来た以上戻るのは時間の無駄だ。おそるおそるドアノブを捻り、扉を開ける。

「いらっしゃいませ」
いやに無機質な声が聞こえてきた。
「交換屋にようこそ」
立っていたのは、妙な格好の老紳士だった。
シルクハットにステッキ、顔はヤギの仮面で隠され、その僅かな隙間からにやついているのがわかる。
「ここが噂の交換屋で合ってるんでしょうか」
「はい、お客様のお求めになっていた、交換屋で間違いございません」
そう言うものの、中には家具ひとつ見当たらない、あるのは赤い絨毯が一つだけだ。
「本当にここが私の求めた場所なのでしょうか」
「それにしては何も見当たらないのですが」

「ええ、ええ、間違いございませんよ、お客さまは”心が読めるように”なりたいのですね?」

一瞬、引き下がるがすぐに尋ねる。

「そうですが、なぜわかったんですか?」

「こういう商売をしていますと、自然と感じることができるようになるのです。
要件もわかっていることですし、早速、交換といたしましょう」

「ちょっと待ってください、もう少し説明していただけませんか?」

「いいでしょう」
ステッキを指で遊ばせながら、紳士は言う
「質問をどうぞ」
「そもそも交換屋とはなんでしょうか?」
「あなたの知る噂どおり、才能や能力を交換し、望む人に与える店です。」

「どうやってそれをするのですか」

「企業秘密となっております」

「私の場合は何を交換するのですか?」

「企業秘密となっております」

「流石に説明していただかないと、こちらとしても納得ができません。そこをなんとかお願いできませんか?」

「企業秘密となっております」
機械か何かと話してるんじゃないかと思えてくる。
「何も説明できないじゃないですか」
「そうですね、生活に支障がでるものは交換いたしません。あなたの持ち余しているーーつまり、不要な能力をいただくかわりにあなたの望む能力を提供します」
「なるほど」
「納得していただけましたか?」
腑に落ちない部分は多いが、少なくとも生活に支障が出ないなら問題はないだろう。
「じゃあ、さっそく交換をお願いできますか?」
「ええ、勿論です」

「ご利用ありがとうございました」


ーー臨時ニュースです。
今日未明、○○株式会社の社員、
……さんが自宅で首を吊っているところを発見されました。……さんは二週間前から会社に来ておらずー
自宅の本は全てビリビリに破かれていたとのことです。警察は事件性も高いと見て、調査を進めています。

『ないものねだり』

3/29/2023, 9:55:01 AM