龍那

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[何もいらない]

 何もいらない、と彼女は言った。
 そっか、と僕は剣を向けた。

「だからって世界を巻き込んでもらうのやめてもらっていいですかね」
「ふふ、正義感に溢れた言葉ね」
 断るわ、と彼女は僕に向けた杖は一振りの大きな鎌へと変化する。
「別にそんなんじゃないんですけどね。……じゃあ、力ずくで止めさせてもらいます」
「できるものならどうぞ?」
 答えの代わりに、床を蹴る。
 数歩で詰め寄り、勢いを乗せて振りかぶった僕の剣は、鎌の柄であっさりと止められた。
「ところで、貴方はどうして私を止めようとするの?」
「欲しいものがあるんで」
 へえ。と光のない彼女の目が細められた。
「貴方は何が欲しいの?」
「貴女の笑顔が」

「……えっ」
「はい、隙あり」

 力の緩んだ鎌を蹴り飛ばし、一緒に剣も投げ捨てて、彼女の手首を掴む。腕を引き、腰を抱き寄せ、覗き込む。
「……なんですかその予想外って顔は」
「え。いや。予想外よ!? 貴方その無表情で分かるわけないじゃない!!」
「わあ心外。僕としては日々表情豊かに生きてるんですよ。これでも。で、世界巻き込んで消える気は無くなりました?」

 その答えはすごい勢いで飛んできたビンタだった。
 
 

4/20/2023, 11:24:29 AM