トト

Open App

その頃の私は、香港の女性とお付き合いしていた。

タイのバンコクで待ち合わせをして、タイ旅行を楽しもうという計画であった。

2人とも一通りのタイ観光は経験済だったので、まだ行った事のない所に行ってみたかった。

そこで彼女が目を付けたのは、パンイ島の水上ムスリム村だった(Floating Muslim Village)。

なるほど、パンフレットを見ると昔のタイ人達が住んでいたような、野趣溢れる作りのホテルで、なにかロマンティックな雰囲気であった。

その上、値段も手頃だった。悩んでみても仕方ないのでそこに決めてしまった。

水に浮いたムスリム村というくらいだから村は水上にある。村全体に板が渡してあって、板の下は水なのだ。

パンフレットでは良いように撮影されていたが、実際に見てみると、パッとしない所であった。

宿泊施設もホテルかと思っていたのに、要するにこじんまりとしたバンガローだった。かろうじてシャワーはあったが、照明もテレビもなかった。食事付きで、どうりで安いはずだと思った。

ただ、昼間の観光は申し分なかった。モーターボートで近隣の島々を渡るのだが、エメラルドグリーンの海に、奇岩も映えるし、プライベートビーチに連れて行ってもらえるので、思う存分海を楽しむ事が出来た。

何時間かそのビーチに滞在し、やがて迎えのボートが来てくれる、また次の観光スポットへ移動するのだ。

ムスリム村に戻ると、もう食事時であった。バンガローそばにテーブルと椅子が設えてあり、そこに料理が運ばれて来る。沈む夕陽を眺めながら、夕食が楽しめる寸法だ。

なんてロマンティックな一時だろうか・・・・

いや、ロマンティックなのは本当に一時だけで、夕陽が沈んだ後は最悪な事態が待ち受けていた。

水上なので、半端ない数の小さな羽虫が光に誘われて襲来する、味わうどころではない、食事どころではなく、満腹になる前にその場を退散してしまった。

部屋に逃げても、真っ暗なバンガローで、携帯の光しかなく、もう寝るよりしかなかった(ベッドもお粗末なものだった)。

もちろん、夜中も虫に悩まされて、もう水上の施設は懲り懲りしてしまった。

夕陽は美しかったのだけれどね。

4/7/2024, 11:45:34 PM