noname

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「それで結局、どうなったの」

 彼女の目は挑発的に僕を見る。終わってしまった物語。本のページに挟まれ、閉じてしまった幸せについて語る僕の舌が乾いていく。

「私ね、"今"が好き」

 淡い色合いのリップに喰まれて、ストロー越しのストロベリージュースだけが、赤く赤く高まっていく。つばを飲み込んで、作った苦笑いで平静を演じながら、僕は彼女に問いかける。だったら、君にとって幸せってなんなのか、って。

「そうね、」

 大げさに首を傾げて、考えるふりした彼女の伏せた目が、すっ、と視線で僕を射抜く。
 肌が、ざわりと熱くなる。まっすぐに僕の目を見たまま、彼女の顔が近くなる。とっさに背けた僕の頬に、くすっ、と彼女の笑みがこぼれてそして、

「続きが欲しくなる、こと」

 耳の奥底へ熱が染み広がる。まっさらな裏表紙に、彼女はまだ、物語を書き足すつもりだ。
 綺麗な終わりじゃなくていい、余計な飛躍があっていい。その内容で、『読者』を喜ばせる必要もない。

「勝手に終わりにしないで」

 貪欲に求めるその瞳に、僕は続きを願っていた。



【ハッピーエンド】

3/29/2024, 9:34:01 PM