「ごめん、なに?」
名前を呼ばれて目を上げたら、君はわざとらしく呆れた顔をする。
「週末の待ち合わせ、変えてもいい?」
「あ、うん、いいよ。どこにする?」
教室の中はさわがしくて、君は少し身を乗り出した。シャンプーの香りだろうか。お花屋さんの店先を通り過ぎたときみたいな、清々しい緑の匂い。
「コラッ、席につきなさい。授業時間ですよ」
遅れてきた担任の声に、君が渋々席を立つ。
「あとでね」
教壇から、次の学校に行くまでは我が校生徒の自覚を持って、などとお決まりの文句が始まった。年明けからいい聞かされ、もはやげんなりする言葉だ。『私、言ったよね?』と『申し訳ないけど』が口癖の年配教師はクラス中から疎まれてる。でもそれも、明日で終わり。
通路を二つ挟んだ席で、耳に髪を掛ける君が見えた。真剣に話を聞くときの癖だ。本当に真面目で偉いなと思う。そして途方もなく可愛いと思う。
これからも、今までみたいに会ってくれる?
新しい友だちとの時間のほうが大切になったりしないよね?
口にするのはまだ怖い言葉を舌の上だけで転がして、私はただ君を見ていた。
『怖がり』
3/17/2026, 9:50:56 AM