#1『cloudy』
「良かった、曇ってる」
晴れてると暑いし、雨は濡れるし、ちょっと暗いけど曇りが一番好きだ。なんだか落ち着く。
「えー?晴れてる方が良くない?」
クラスのマドンナ的な人がそう言った。周りについている人たちも口を揃えた。「それな」「それな」連発でうるさい。まるでギラギラに私たちを照らして気温を上げる太陽みたいだ。本当に大嫌い。私が好きなのは、
「そうだよね。晴れてるのも好きだけど、暑くて汗でそ
の可愛いメイクが崩れちゃうから崩れにくく可愛い状
態でみんなを見れる曇りが1番好きかな」
出ました、通称女神様の登場です。本当に裏表なく真面目にこういうことを言えちゃうのがすごい。この言葉にマドンナたちも納得したのか少し声の大きさが小さくなった。私は思う。この人こそが本当の太陽なんじゃないかと。
でも知ってる。この人は雨だ。裏でいつも泣いて苦しんでる。自分が1番苦しいのにちょっと苦しい人が現れるだけですぐに笑顔で助けてくれる。病気?人間関係?家や先生?何で苦しんでるのか分からないけど、それでも笑顔でいる人を見ると申し訳なさで私まで苦しくなってくる。
「ね?」
マドンナたちに嫌な顔をしてた私に向けたその笑顔はどこか儚げさがあった。みんなは気づかない。いつも女神様を見てる私だけが分かる。
突然、女神様が学校に来なくなった。マドンナたちも少し寂しそうな雰囲気だった。やっぱり女神様だなと思うと同時にあの最後に見た笑顔を思い出した。学校が終わるとすぐに女神様の家へ走った。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「っ、どうして…」
姿が見えた瞬間、私は抱きしめた。冷たいけど、暖かい。すると、女神様は泣き出した。
「ううっ…」
「…」
私は何も言わずにただ抱きしめるだけ。女神様が泣き止むまでいつまでもいようと思った。それからどれくらい経っただろうか。太陽が沈み始めた。
「ありがとう…、あなたはまるで雲だね」
「え?」
「人に合わせて形が変わってて、自由気ままに動いて晴
らしたりたまに怒って雷鳴らし、悲しくて雨を降ら
し…。でもふわふわしてて包容力があって落ち着く。
私は女神様とか呼ばれてるけど、本当の女神様は太陽
じゃなくて雲、曇りなんじゃないかなと思ってるよ」
その日から女神様は笑顔が減った。いや、減ったんじゃない、他の感情が増えた。怒ったり、泣いたり、びっくりしたり。それでも裏表のない優しい言葉は変わらない。英語の時間での言い間違いやその時の天気が曇りだったのもあって、みんなは女神様をcloudyと呼ぶようになった。…cloudyだけ私を女神様と呼ぶのはちょっと嫌いだけど、好きだ。
「やっぱり曇りが1番落ち着くね」
9/23/2025, 12:50:44 AM