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 いつも通り学校へ行く身支度を済ませ、ダラダラとスマホ片手に朝食をとっていた私は突然の情報にその手を止めた。
 カラカラッと無機質な音を立てて右手から零れた箸は、床に転がることなく机の上で静止する。

「引退......?」

 思わず口から溢れた声は誰に届くでもなく消滅した。早く食べちゃいなさい、という母親の声をよそに暫くその目が画面から離れることはなかった。

 いつもは慌てる始業10分前を告げるチャイムも今はまともに入って来なかった。和気藹々とした下駄箱は今の鬱屈とした心情とは一ミリたりとも合致しない。すぐ離れようと足を早めた次の瞬間、私を呼び止める声がした。

「おはよう!ーーちゃん!」

 何の変哲もない友人の声。つい窯から溢れそうになった引退の話題をすんでの所で止めることに成功する。彼女は彼のファンではない。そもそもその箱にすら詳しくなかったはずだ。
 無理に共感を覚えて欲しい等とは思っていない。私だって知らないジャンルのアイドルが引退した所で同じようには共感出来ないだろうし、してほしくない。
 だから私はいつも通り、何でもないフリをした。


「何でもないフリ」

12/12/2023, 9:31:29 AM