『幸せに』
幸せになる、そう言ったのは嘘だった。
結婚式。娘が言った言葉は、父親の私を安心させる為のだけの嘘だと気づくのは、あの子が酷い醜態の肉片に成り果てた後。
あのとき、あの子が流した涙は感動の涙じゃない、悲しみによるお別れの涙だと、どうして父である私が気付なかったのか。
——私は、私が許せない。
○○○
ギリギリ、と首を縄で絞める音がする。
「うっ、あ……!」
お父さん、僕が必ず娘さんを幸せにします。
そう言った好青年風の男の首を絞めた。
あぁ? アンタの娘? もうちょっと働いてくれるかと思ったんだけどなぁ。十数人にマワしただけでプッツンして死ぬとか、しょーじき、肩透かしもいいとこッスわ。
下卑た笑みを浮かべた顔の男は、もうこの世に居ない。
私が、この手で殺したからだ。
お父さん、母さんが死んだ後も男手一つで私を育ててくれてありがとう。私、幸せになるからね。“大丈夫だから、ね”
娘が言った。その言葉、何故、私は気付なかった。
許せない、許せない、許せない……!
あの男の父親は、私の上司だった。
あの男は、娘にこう言っていたそうだ。
“俺と結婚しないと、父親に掛け合って、お前の父親をリストラさせるけど……どうする?”と。
娘は、とても良い子だった。
だからこそ、その優しさを利用した男も、気付なかった私自身も許せない。
娘の血が濃く香る、娘の新居に油を巻いた。
——全てを、終わらせる。
それが唯一私に出来る事だから。
○○○
『臨時ニュースが入りました。家屋が一軒、全焼したとのこと。消防からは、中から二名の男性と思われる遺体が発見され……』
おわり
4/1/2026, 1:31:58 AM