地元の小さなスーパーでは
手づくりのパンを売っている。
日替わりで作られるコッペパンの中の具を
私は毎日楽しみにしている。
だから、焼き上がりを知らせるベルの音が
店内に響くと機嫌を損ねていても私の口元が緩む。
初めて買ったコッペパンの中はあんバターだった。
愛知出身の母が好きな味。
母と一緒にこのスーパーに初めてきたとき
母は子供のように目を輝かせ、
ひとつ息を吐いて、こう言った。
「あんバターはね、お母さんの母の味なのよ。
ただ、あんバターと一口に言っても母のは別格。
普通より少し強めの甘さのあんと
しょっぱいバターが相まって、いい塩梅を生む。
あの味を出すのは意外と難しい。
でも、もしこのスーパーと母の味が似ていたら
また買いに来ようね」
そう言ったあのときの母のほんわかした笑顔は
あんバターのあんみたいな甘い匂いがふわりとした。
今日もベルの音が響いた。
いつもより少し遅い時間。
手間のかかるコッペパンの具は新商品なのだろうか。
いや、改良した母の思い出の味のあんバターかも。
12/21/2024, 4:43:15 AM