最悪(最下位という名の無慈悲)
今日から新学期だというのに気分が上がらない。
―――まだ半分眠っている頭でパンをかじる。
惰性でつけているテレビ画面から、番組最後のコーナーである星占いが流れていた。
局アナのおねえさんが視聴者に向けて朗らかに順位を発表していくのを、彼女はパンを頬張りながら何とはなしに眺めていた。
「え、最下位? ………最悪」
―――新学期から縁起の悪いものを見てしまった。
特に興味もないし気にもかけないが、心機一転となるこの日、最下位とかいうワードは聞きたくなかったのが本音だ。
“今日最下位のあなた!
やることなすこと全て裏目に出そう。身の回りに気をつけて!
ラッキースポットは―――”
「やだ、もうこんな時間」
不意に我に返り、彼女が時計を凝視する。
―――新学期早々、遅刻だけは何としても御免被りたい。
慌てて支度をし、自分を鼓舞するように行ってきます!と気持ち声を張ると勢いよく家を出た。
………占いなんか信じないが、やることなすことと言われるとちょっとムッとする。
確かに目覚ましは謎に無音のまま起してくれなかったし、いつも混んでないトイレは地味に混んでいて時間がかかったし、挙句の果てに今。遅刻の危機に晒されているのだけど。
「嘘だよこんなの。あの占いが悪い、全部あれのせい」
ああ憎き星占いめ。こっちが呪ってやろうか。
―――腕時計を見ながら小走りに裏門へと向かう。
間に合うか間に合わないか、時間との勝負の果て。
鳴り響く開始の音を頭上に受け、ようやく目前に現れたそれに対し―――
「最下位上っ等!」
ええいままよ!と、彼女はひらりと宙を舞った。
片手をついた塀の上。
颯爽と飛び越え華麗に着地し、速やかに校内に潜入する。
………という理想のイメージは、宙から見下げた視線と地上から見上げた視線によって最悪の結末を辿るに至った。
―――彼女の脳裏に今朝の星占いの続きが蘇る。
“今日のラッキースポットは―――”
「………学校の正門」
―――後悔先に立たず。
宙を舞う間、もう二度とあの星占いには悪態をつくまい、と。
彼女は嘘だと罵った今朝の自分を呪った。
END.
6/7/2024, 4:33:14 AM