「スズカ、まだ起きてたの? 早く寝なさい」
母親は窓辺から夜空を眺める娘に言った。
「ねえ、ママ」
娘は母親を振り返って言った。
「なあに?」
「夜って、なんでこんなに長いのかしら」
「なに、どうしたの?」
「早く明日になってほしくて」
明日は娘の学芸会の日だった。
「わくわくして眠れないんでしょう?」
母親はそんな娘がかわいく思えた。
「たとえば、夜のお空を駆けっこみたいに走れたら、早く明日になるのかしら」
いきなり詩の一節を朗じ始めた娘に驚きながら、母親はこう答えた。
「そうね。そうしたら目をつぶって、スズカが夜空を駆けるところをイメージしてごらんなさい。そうすれば、ほんの少しで朝になっているかもしれないから」
「わかったわ、ママ」
そうして母親は娘を寝台へと導くのだった。
翌る日。
「はあ、はあ、はあ」
「スズカちゃん遅〜い!」
「もう私たちの劇、始まっちゃうよ」
スズカは学芸会に遅刻してしまった。
「スズカちゃん、昨日の夜わくわくして眠れなかったんでしょ」
お友達に囃し立てられたスズカは、息を整えながら答えた。
「違うの。夜を早く進めようと思って駆けっこしてたら、朝を通り過ぎてお昼になっちゃった」
2/22/2025, 1:08:11 AM