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「だから言ったじゃないのぉ」

悪ふざけをして、コップに入った牛乳をこぼしてしまった。そんなに怒らなくてもいいのに…お母さんだってこぼす時あるし…。

「宿題やったの? 明日の準備は?」
「今やろうと思ってたのにぃ」

お母さんはやろうと思うことを先回りして言ってくる。だから、腹がたった。

もっと私を信じてくれても良いのに!
絶対にお母さんみたいなお母さんには、ならない!!!って思ったことが何度もある。

そうかと思えば、沢山話を聞いてくれて、悲しいことがあった時も、先回りして聞いてくれたっけ。

「なにかあったの?」

おいでって両手を広げて、私を抱きしめてくれた。ぽちゃっとした手がなんだか気持ちよくて、安心した。


時々ふと、生前の母を思い出したりする。







「…今やろうと思ったのに!じぁあさぁ、お母さん子はどもの頃、言われなくても宿題やってたの?」


その言葉に、ハッとした。

あれ?
私…子どもの頃出来てた?

脳裏に、ため息混じりの「やれやれ」と言った表情の母が浮かんだ。

「ふふふ」
「え?なに?気持ち悪い」
「ごめん、ごめん、おいで」


両手を広げて、娘を抱きしめた。不貞腐れていた表情が急に、赤ちゃんみたいになる。


赤ちゃんをあやす様に、抱きしめた娘の体を左右に動かしながら、「大好きよ」と呟いて窓の外に目をやった。


あなたみたいには絶対にならないと誓ったのに、どうやら、似てきたようですよ…


お母さん。


―――――――

【お題】鏡

8/18/2022, 1:54:59 PM