白井墓守

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『桜散る』

——桜散る、その後に何が遺るか。
答えは桜の木の下に眠っている。

○○○

「僕が何がを言いたいか、わかるか?」
「いいや、全く微塵も理解らないね」

全てを知っているような顔で、アイツは嗤った。
世界を嘲笑うような、皮肉な笑みをケラケラと浮かべていた。

「なんで、こんな事をした」
「——なんで? 本当に、わからないのかい?」
「…………」

僕は気まずそうに眼を反らした。
そんな僕を見て、アイツは鼻を鳴らす。

「ほらな、その沈黙が答えだよ」
「復讐、か」
「復讐? いいや……これが、世界の真理だからさ」

そう言ったアイツの瞳は真剣そのもので、その奥深さに頭が痛くなった。
俯いた先、物言わぬ双眸と目が合う。生首だ。その心臓がどこにあるか、言うまでもない。

僕はそっと、葉桜に変わりつつある桜の……その根本に目をやった。
——桜の木の下には、死体が埋まっている。
とは、どこの怪奇小説に書かれたこと、だっただろうか。

「どうして……どうして、なんだ」

それでも、それでも僕はイヤだった。諦めきれなかった。どうにかしたかった。どうにも出来なかった。だから、ただ問うた。

「……君は、本当に優しいね」

返ってきたのは、優しい笑みだった。
まるで大人が幼児に向けるような、そんな笑み。
いっそ酷いともとれるような、優しい笑みだった。

僕は固く、目を瞑った。
これまでに、コイツがしたことを思い出す。
いや、世界に起こったことを、起こしたことを、思い出す。

——世界は花見に浮かれた、のだ。
そして、桜が散ったとき、世界はともに心中した。

よくある話だ。
根も葉もない噂を流して、金持ちから金を搾り取って——そして、借金をさせて自殺に追い込む。詐欺の手口。

——桜の花見には、不老不死と美容の効果がある。
そんな法螺を吹いたコイツに騙され、桜に投資させられた金持ち達は、今は桜の木の下に埋まっている。
文字通り、身も心も桜の栄養分になったのだ。

過去。
僕とアイツは、兄弟だった。
いや、今も血が繋がっている兄弟だ。
しかし、名字は違う。引き取られた先が、別々だからだ。

昔、両親が詐欺にあった。
裕福な人達だった。善良な人達だった。だが、賢くはない人達だった。
僕は騙されないように、賢くなることを求めた。
しかし、コイツは……騙す側に、回った。それも復讐ではない。それが、世界の真理だと、そんなことを言うまでにのめり込んでいる。いっそ、カルト的な宗教だ。

「お前は、どうしたらこっち側に来てくれるんだ」
「逆に、君がこっち側に来る気はある?」
「ない」
「なら、それが答えなんだよ」

静かな笑みをたたえたアイツの姿に、歯を食いしばる。
引き取られた先で何があったのか、僕に知るすべはない。
しかし、その未来の姿がこれなのかと、今の目の前に居るアイツの姿を見ながら、何も出来ずのうのうと過ごした日々に嫌気がさした。

まるで、空をつかむような、会話。
お互いに、諦められないものがあった、あるのだ。

「終わりにしよう」

先に痺れを切らしたのは、アイツだった。
滑らかな動きで、銃を構える。僕に、向けて。

僕もつられるように、アイツに銃を向けた。アイツよりは、ぎこちない錆びたブリキのような動きで。

一時は、本当に仲が良かった兄弟だった。
花が咲いたような、絵本に出てくるような、頭に花畑でも詰まっているような、そんな兄弟関係だった。
平和で、平凡で、アイツの手を引いて庭をかけたことも、母に習って花畑で花冠を作り、アイツの頭に乗せてやったこともある。
指をしゃぶっていたアイツが、花冠を載せた瞬間、僕に笑顔を向けて拙い言葉付きで「ありあと、にーちゃ」と感謝を述べていたことを思い出し、目尻がどうにも熱くなる。

花は咲いた——そして、既に散ったのだ。
罪のない人々の命も、僕とアイツの関係も。

——桜散る、その後に何が遺るか。
答えは桜の木の下に眠っている。

……引き金を、ひいた。


おわり

4/17/2026, 6:26:12 PM