きらの。

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後悔


安定した職につきたい。
そう言って私は彼女の誘いを断った。
彼女と私は高校の時、一緒に軽音楽部に所属していてバンドを組んでいた。毎日のように歌っていた。
私は彼女のギターに合わせて歌うのが大好きだった。
高校を卒業し、同窓会で久々に会った時、一緒にバンドを組まないか。と言われた。
私は高校のときを思い出し首を縦に振ろうとしたが両親の顔が頭をよぎった。
学力の高い大学に行きたいと言う私の願いを聞いて、高い学費をずっと払ってくれていた。
私は彼女の目を見ることなく首を横に振った。
彼女は、無理やり笑ったような顔をし、「そうだよね。急にごめんね。」といいその場を去っていった。


そんな彼女との次の再会はテレビ越しだった。
お昼のニュースで彼女の顔写真が出る。交通事故で彼女は不運にも操作不能となった車に轢かれて亡くなってしまった。正直その時私はなんの言葉も出せず考えもまとまらなかった。
しばらく経ってから彼女は一人暮らしをしていた事が分かり、尋ねてみることにした。
インターホンを鳴らすと、クマができやつれた顔の彼女の母が出迎えてくれた。
「お久しぶり。今日は来てくれてありがとう。」
彼女の母は私を机に座らせるとキッチンの方へ向かい、お茶の準備を始めた。
彼女の家に入るのは実は初めてなのでキョロキョロと辺りを見回していると、見慣れたギターの横に楽譜が置かれていた。
私はその楽譜に近寄り、一つ一つの音符を眺めるように見た。
その曲は高校の時に飽きるほど一緒に演奏した曲のアレンジバージョンだった。私は懐かしむように軽く微笑んでいると右上に彼女の名前が書かれていることに気づいた。
そこには、彼女の名前と共に私の名前も書かれており、その横には「ボーカル」と書かれていた。
私はその文字を見た瞬間ゆっくりと膝から崩れ落ちた。後悔したって遅い。そう分かってはいるものの涙が止まらない。私は目の前にあるギターを優しく撫でながら「ごめん。」と呟いた。

5/15/2024, 10:27:26 AM