白糸馨月

Open App

お題『夜景』

「次、どこ行きたい?」
 って彼女に聞いたら「工場夜景が見たい」と言われた。ビルから見えるのでもなく、観覧車から眺めるのでもないのもあるんだと思った。
 チケットを二枚分とって、当日、意外と人がいるエリアから船に乗り込む。
 彼女が「窓際行きなよ」って言ってくれたので、僕は言われたとおりにする。夜景が見たいと言ったのは君だけど、僕が窓際でいいのかなと思う。
 それからまもなくして船が出発する。僕と彼女は持ち込んできたお酒とおつまみを食べながらガイドさんの話を聞いていた。
「御覧ください、あそこにあるのは」
 ガイドさんの掛け声で僕は窓に目をやる。
 そこにはいくつも煙突があり、クレーンが見えている。それらが夜で見やすくしているのだろう、ピカピカ光を放っているところがある。それらが川に浮かんでいる、その光景に僕は目を奪われ、気がつくとスマホを手に写真をとりまくっていた。
 青く浮かび上がる煙突とかとてもきれいだし、時折炎を吐き出しているところなんかは迫力満点だった。
 と、夢中になって、「はっ」となって、思わず彼女を見る。彼女はにやにやしていた。
「え、なに……」
「いやぁ、工場夜景行って良かったなぁって」
「君は夜景見なくていいの?」
「んー? 夜景はべつに。ただ、君はすごく興味あるだろうなって思ったし、案の定じゃない」
 そう言われて、僕はなんだか気恥ずかしくなって窓の外に再び視線を向ける。
 照れている顔を彼女に見られたくなくて、僕は工場夜景を写真に撮り続けていた。

9/18/2024, 11:42:22 PM