足音
歩けるようになったばかりのころ、あなたはいつも私の後をついてきた。
トイレに行くのにも、台所へ行くのにも、いつもいつもトコトコとついてきた。
もちろん、どこのドアもぜーんぶ開けっぱなし。
あなたがどこでもトコトコ行けるように、ドアは閉めないようにしていた。
ある日、あなたがすやすやお昼寝してくれたので
「お、今ならトイレに行けるかも」
と私はそうっと起き出した。
いつもなら、開けっぱなしで入るトイレ。
音がしないようにそっと閉じる。
やっぱり、トイレのドアは閉まってる方が落ち着くなぁ。あれ?
ちっちゃい音が聞こえてくるよ。
トコトコ歩く足音と、半分泣きながら私を呼ぶ声。
「ここだよー、トイレだよー」
と叫ぶと、トコトコがトットッと走り出して止まった。
「わーん、ちゃーん(お母さん)」
ドアの向こうで大泣きしているあなた。
焦って用を済ませドアを開ける。
大泣きのあなたを抱き上げて、またお昼寝の布団に一緒に横になる。
しばらくヒックヒックとしていたけれど、ぎゅーっとしたらまた眠ってしまった。
まだまだトイレはオープンだなと、小さな背中をトントンする。
それはたった10年前のこと。
今あなたの部屋はドアがしっかり閉まっている。
8/19/2025, 8:37:49 AM