「空模様」
曇り時々雨、降水確率50%か。年1回の野球観戦の前夜、天気予報は微妙だ。明日行くのはスタジアム。合羽は一応用意しておこう。三塁側内野席は夕陽が眩しいが、曇りなら大丈夫か。すぱっと晴れてくれればいいが、中止だけは勘弁してくれ。
「ねえ、明日おにぎりでいい?」
「そうだな。足りなければ球場で買おう」
全部買ってもいいと思うが、そうすると出費か多すぎるからといつも用意してくれる。高校の時と同じだ。有能なマネージャーだった。昔も今も助けてもらってばかりだ。
こうして二人で過ごすのはとても幸せなことだ。でも、このごろ考えるんだ。そろそろ新しい家族を迎えないか?
本当は君が入部した時から好きだったのに、なかなか言えなかった。君はみんなのマネージャーで、誰に対しても同じ態度で接していた。
準決勝で負けて、悔しくてみんなで泣いた。決勝まで残ったらこのスタジアムで試合が出来たのに。
「また考えてる」
「何?」
「準決勝で負けたから、ここで戦えなかった」
「図星だ」
「ねえ、このスタジアムで新しい思い出作ろうよ」
「いつになるか何人かわからないけど、子どもと一緒にここに来る。そろそろ考えよう?新しい家族」
まただ。何でも先を越されてしまう。
「何で俺の考えてることわかるの?」
「だって、マネージャーですから」
そう言って笑う君の笑顔はあの時と同じだ。ぐずぐずとバットやグラブを片付けていたらバスに乗り込むのが最後になってしまった。君が呼びに来た。
「みんなのマネージャーは今日で終わり。明日からは君の専属マネージャーになる。ほら、急ぐよ」
手を取られて走り出す。あれから10年になるんだな。
「じゃあ、今夜から」
そう言って手を握る。
「帰ったらね。今は試合に集中!」
今にも雨が降りそうな空は試合中は何とか持ちこたえた。応援するチームは負けてしまったが、今日はまだ終わらない。ビールを我慢したから帰りも俺が運転する。
「あれ、どこ行くの?」
「家まで待てない。近くのホテルを予約した」
急に静かになった君の横顔。
「うん」
サーッと雨が降り始め、フロントガラスにみるみる雨粒がかかる。ワイパーの音だけが響く。
8/20/2024, 8:59:33 AM