「ねえ、なんでそれ、いつもつけてんの?」
友人の天津が、奉献の首元にかけられた
ペンダントを指さした。
奉献は自分の胸元で鈍く光る青い石を見下ろす。
物心ついた時、いや、それよりもずっと前から
肌身離さず身につけていたものだ。
幼い頃に亡くなった母親が
お守りだと言っていたような気がする。
「わからん。でもなんか、外すの怖くて」
「ふぅん」
天津の表情が、一瞬だけ陰りを見せた。
「なあ、奉献。その石のこと、
詳しく調べたことあるか?」
「え? なんで急に?」
「実は……」
天津は奉献の向かいに腰を下ろすと、
真剣な声音で話し始めた。
「図書館で郷土史を調べてたら、お前の実家が
あった地域の古い記録を見つけたんだ」
天津は一呼吸置いて、言葉を続ける。
「その石に酷似したものの記述があった。
『青の呪石』って呼ばれてたらしい」
「呪石?」
奉献の脳裏に疑念がよぎる。
「昔、その地域では奇妙な死が相次いでいた。調べてみると、皆が同じような青い石を身につけていたんだと。石を身につけた者の周りでは不幸が続き、
やがて持ち主本人も命を落とす、と書かれていた」
「まさか、そんな……」
奉献は首を振った。そんな話、一度も聞いたことが
ない。迷信に決まっている、と断言したいのに、
言葉は喉の奥に引っかかった。
幼い頃、両親を事故で亡くし、祖父母のもとで
育った奉献。その後も仲の良かった友人の家が
火事で全焼したり、大怪我を負ったり、
奉献の身の回りでは不幸が続いた。
いつしか奉献は「呪われた子」だと
影で囁かれるようになり、それを知ってからは、
人と距離を置くようになった。
田舎を出て大学に進学してからも、親しい人間を作ることはなかった奉献に、真っ先に声をかけてくれたのが、天津だったのだ。
いつも周りを人に囲まれ、背が高く、顔も整って
いて、女にモテる。そんな奴が、まさか自分の友人になってくれるとは思いもしなかった。
「石、手放してみないか?」
――
二人は市街地から離れた山道を歩いていた。
聞こえてくる鳥の不気味な鳴き声や、
木々の葉擦れの音が、奉献の心をざわつかせる。
「ここでいいのか」
奉献が小さな池のほとりで立ち止まると、
隣にいた天津が頷く。
奉献は震える手でペンダントを外し、
池に投げ入れた。
と同時に、激しい耳鳴りがした。
全身を襲う耳鳴りの中、かろうじて崩れ落ちるのを
堪え、石が水の底へと沈んでいくのを見つめる。
その時、ポケットに入れていたスマートフォンが
震えた。祖父からだ。
スマホを耳に当てると、怒っているような、
どこか焦りに満ちた祖父の低い声が聞こえてきた。
「石、外したな」
深刻な声で断定する祖父に、
奉献は戸惑いを隠せない。
「今すぐ逃げろ」
ノイズが走ったように祖父の声が
途切れ途切れになり、ぷつりと通話が切れた。
スマホの画面を見つめる。
逃げろってなんだ?
ていうか、なんでじいちゃんは俺が石を
手放したこと知っているんだ?
さまざまな疑問が頭を飛び交う最中、
いきなり強い力で腕を掴まれた。
「天津?」
「やっと、お前に触れられる」
天津は俯いており、その表情はよく見えない。
言い表せない不安が背筋を伝いながら声をかけると、天津はゆっくりと顔を上げた。
「ありがとう、奉献」
天津は、今まで見たことがないくらい
嬉しそうな顔で笑っていた。
お題「隠された真実」
7/13/2025, 6:09:39 PM